ビッグミリオン
「ああ、段取り通りに事が運んで良かったな。いったい誰が一試合に五十万ドル賭けるっていうんだよ、なあ。彼女に“負けたって事実を認めさせないとならない”事が面倒だったけどな。それが無かったら、彼女はすぐに精神をおかしくして、売り物にならなくなってしまう」
支配人は両手を広げて肩をすくめた。
「さて、次はぱーっと女の子がいる店に行こうぜ!」
ソムたちは意気揚々と立ち上って店を出ると、支配人の用意したベンツに乗り込んだ。
翌朝――チャオプラヤー川に二つの身元不明の死体が浮かんでいた。至近距離から頭部を撃ち抜かれ、即死状態だと思われた。
一人はオレンジ色のタンクトップを着ていて、もう一人は首に大蛇のタトゥーが入っていた。誰も気づかなかったが、二人の後頭部のチップは生体反応が無くなった瞬間に例のごとく消滅していた。
地元新聞の発表では、その手口から【犯罪組織に消されたのだろう】と書かれていたが、最後の行に〈その顔は何故か両方とも笑っていた〉と短く添えられていた。
「こううまく行くと、なにか気持ち悪いなあ」
支配人が目を細めながら見ている机の上には、五十万ドルの紙幣と、琴美の人生の値段と言うべき二十万ドルが無造作に積まれている。しかし、彼はこの紙幣の八十パーセントを組織の上層部に納めることになっていた。
その時! 突然支配人の部屋のドアが勢いよく開いた。そこに飛び込んできたのは……。
「動くな! 手を見えるところに出せ!」
アリンタラート二十六警察特殊部隊(SWAT)の部隊員たちが、ドアを蹴破って突入してきた。
カチャ! カチャ! という音と共に短機関銃が支配人につきつけられる。
暗視ゴーグルをつけているので隊員たちの表情は分からないが、目の前の札束に全く動じる様子は無かった。支配人は抵抗することもできず、そのまま連行されていく。彼には二件の殺人罪を含め、非常に重い刑罰が下るだろう。
誰も得をしないまま『チーム5』のビッグミリオンチャレンジは、その幕を閉じることとなった。