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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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ビッグミリオン

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 このラスベガスには『チーム3』のあつしたちも来ていた。それを追いかけるように『チーム4』のモヒカン達も朝方に飛行場に降り立った。彼らが勝負の場に、一緒の場所を選んだのは偶然なのかどうかは分からない。航空会社は違うが、『チーム8』のアメリカ人三人もラスベガス空港に昼ごろ着いたらしい。だがこの三人の詳しい情報を知る者は、この時点で誰もいなかった。

 あつしたちはフォーシーズンズ・ラスベガスにチェックインを済ませると、おばあさんを部屋に残してカジノ巡りを始めた。この有名なホテルはカジノ街から少し離れた所にあるので、連泊するのには最適なホテルだ。カジノとホテルライフを切り離して過ごせることから人気が高い。
「なあ、あつし。実質的にあのばあさんは役に立たないぜ。チャレンジ成功したら分け前は少な目でいいんじゃねえか?」
 ラスベガス・ストリップ(中心街の通り)を歩きながらゴリラが落ち着かない様子で尋ねた。
「ダメだ。分け前はきっちり三等分だ。お前……気付かなかったか? あのばあさんの腕にチラっと見えた『玄武』の刺青を。俺の記憶が正しければ、中国のマフィアの一員だよ。面倒なことになるのはイヤだろ?」
「マジかよ! 本当にアクの強い人間を集めたよなあ……。あのサラリーマンといい、とても一般人から選んだとは思えん」
 ひゅーっと口笛を吹いたゴリラの顔の中心には、サラリーマンの蹴った跡がまだ赤黒く残っている。税関でひと悶着あったのもこのキズのせいだった。
「それとな、『チーム10』のチャイナドレスを着ていた中国人の女いただろ? あいつは青龍の刺青をしていた。あの刺青は龍星会だ。やつらは玄武系の蛇甲会より危ない。他にもいるかもな」
「あつしは何でそんなに詳しいんだよ。もしかして中国人か?」
 ゴリラはニヤニヤ笑いながら軽口を叩いた。
 ごきっ!
 次の瞬間、あつしは持っていたアルミケースの角を、ゴリラの顔に斜め四十五度から思いきり叩きつけた。自分より頭ひとつ高いゴリラの顔に躊躇なくだ。ちょうどサラリーマンにやられた鼻面にまたヒットして、ゴリラは鼻血を噴きだしながら道路に蹲った。そしてその頭を、“まるでサッカーボールを蹴るような自然な仕草で”蹴り上げる。
「おう! てめえナメた口聞いてんじゃねえぞ! 俺はれっきとした日本人だ。いいか、良く聞け。俺はな、新宿のアブない多国籍ヤクザの中で育ったんだ。中にはブラジル人もいたし、中国、韓国マフィアもいる。お前みたいにガタイがデカいだけで何でも許されるって世界じゃないんだよ。人を見極めてから口を聞けよ。――あとな、俺を呼ぶときはあつし“さん”と呼べ」
 彼は息ひとつ切らしていない。そしてその眼は氷のように冷たかった。
「わ、分かった。あつし……さん。あれっ、前歯が一本折れちまった」
 ゴリラは口の中から血の付いた前歯を舌で押し出すように取り出した。
「ははは! ハクがついてよかったじゃん。それだと、うどん食う時は口を閉じたまますすれるなあ」
 自分がやったにもかかわらずゴリラの顔を見て大笑いしている。
 漆黒のスーツで見えなかったが、あつしの背中には、お馴染みの刺青が一面に入っていた。彼は、新宿を中心とする新興組織の若頭だった。もちろん、不幸な事にゴリラはそれを後で知ったのだが。
 これ以降、彼は自分より年下にもかかわらず、あつしのことを“さん”付けで呼ぶようになった。
 ゴリラの出血が落ち着くと別のカジノに向かうために、シティセンターの前の車止めでタクシーを拾う。その血まみれの顔に、運転手は少し訝し気な表情を浮かべたが、すっとドアを開けた。
 ラスベガスのタクシーは日本のそれと違い、ホテルやイベントの告知の看板が無理やり車にとりつけてある。始めて乗った人は、運転席の横に信じられない注意書きがあることに気付くだろう。
〈喫煙と飲酒、及び以下の行為:大笑いする、大声をあげる、歌う、叫ぶ、走る、ジャンプする、そして様々なタイプの淫らな行為をすること――は許可されています〉とユーモアたっぷりだ。
 そして、最後の一行は〈Welcome to Vegas, Baby!〉と締めくくられている。

 あつしの目の前には、マンダリン・オリエンタル・ラスベガスが見える。夜になるとストリップビュー スイートからは煌びやかなネオンが一望できると評判のホテルだ。
 乗り込む寸前に向かいのホテルの車止めに目をやると、どこかでみたオレンジ色の変な髪型のヤツがいた。リンダとリーマンの姿も見える。
 あれは……『チーム4』のモヒカンだ。
「ヤツらも来ていたのか。場合によってはまた手を組むことになるかもな」
 あつしはそうつぶやくと、ゴリラを無理やり後部座席の奥に押し込みタバコに火を点けた。
作品名:ビッグミリオン 作家名:かざぐるま