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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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ビッグミリオン

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「すまん。情けないことにわしは脅迫され、桁外れの権力に結局逆らえなかった。既に知ってると思うが、この時期にウイルスを撒くという事は、もう数十年前から決まっていたことじゃった。今回のウイルスもいわゆる出来レースじゃ。例の七三一部隊もウイルスを権力者から提供され、事前実験をしただけなんじゃ。さらに未来には、今回のパンデミックのデータを参考にして、より強力なウイルスがばら撒かれる可能性もある。裏の権力者の『人口調整』はこれからも決して止まらないじゃろう」
 小次郎の口から発せられた『人口調整』という言葉に不気味なものを感じたのか、みんな顔を見合わせたまま一斉に黙ってしまった。
「その、裏の権力者っていうのは一体誰なんですか?」
 重苦しい空気の中、俺が代表して質問する。
「ふむ。わしが独自で調べたところ、ある財閥の一族がそれにあたる。彼らはアメリカの『通貨発行権』さえ持っているのじゃ。つまり、アメリカ政府からじゃなく、彼らの命令次第でドル札をいくらでも刷れる権利を持っているということになる。だいたい、『民間企業がドル紙幣を意のままに印刷できる』って事がそもそも妙だとは思わないか? ドルを握っているということはつまり、世界経済を握っているということじゃ。過去、その発行特権を強硬な態度で糾弾したのが、あのケネディ大統領じゃった。この妙な体制を変えようとした事が暗殺された原因のひとつと言われておる。さらに彼らの強大な特権から生まれる金は、秘密結社などの資金源になっている。イルミナティ、フリーメイソンなど名前だけは聞いたことがあるな? 石油産業や武器産業と合わせ、それらの複合体が黒幕だとわしは睨んでいる」
「なるほど。アメリカ政府ですら手を出せない相手が全部仕組んだってことですね?」
「そうじゃ。そしてこれからもな」
「うーん。それを止めることはできないの? 謙介さん、ぱぱっとやっつけちゃってよ」
「あずさ、俺がスーパーマンでもたぶん無理だ」
「――いや、まさに今日はそのことで集まってもらったんじゃ」
 全員の驚いた視線が一斉に鬼頭小次郎に集まった。
「いいかな? まず、上条謙介くん。君は君の曽祖父(ひいおじいさん)と目がそっくりじゃな。そして渋谷あずさくん。そのスラッとした鼻筋は先祖譲りじゃ」
「ちょ、ちょっと待ってください。あなたは何を言っているんですか?」
「ほれ、この写真をよおく見てみろ」
 手渡された白黒の写真には、軍服を着こなした三人の人物が、背筋をぴんと伸ばして写っていた。中心に立っている人物は、目の前の鬼頭小次郎に目元がそっくりだ。
「中央がわしの親父の大二郎じゃ。両脇の上条陸軍軍医中佐、渋谷陸軍薬剤中佐は、軍で親父と親友だったんじゃ。君らの曽祖父の名は上条真樹さんと渋谷弘蔵さんじゃろ?」
「たぶんそうだと思います。陸軍にいたとは聞いていましたが……。名前は確か間違いないはずです」
「あたしも、おばあちゃんから聞いたことがあるわ。真樹さんで合ってると思う」
 写真を覗き込みながら二人で頷いた。
「うむ。家系図をたどって行けば、君たちは彼らの直系の子孫にあたるはずじゃ。鬼頭大二郎と君たちの曽祖父は、日本軍部よりも強大な組織から密かに命令を受けていた。だが、彼らも人並みの軍人魂を持っていた。こんなウイルスを手に入れれば、それを使ってでも戦争に勝ちたいと思うのが人情じゃないか? しかし……それは結局実行に移せなかった。なぜなら、大二郎の妻は病死したと記録にあるが、本当は権力に殺されてしまったからじゃ。『下手な考えを起こすと、こうなるぞ』という警告じゃな。
「ひどい話だな」
 紫苑は悲しそうに目を伏せる。
「ああ。そこで彼らは、せめてワクチンだけでも密かに子孫に残そうとしたのじゃ。暗号まで使ってな。さて、ここでよく思い出して欲しいが、君たちは子供の頃アメリカに旅行したことは無かったかな?」
「あ! そういえば……。一枚だけ不思議な写真がアルバムにあったわ。両親に聞いても首を傾げてた。〈あずさ・二歳〉とだけ横に書いてあって、ひいじいちゃんがあたしを白い部屋で抱っこして笑っている写真だったわ。見ても全然思い出せなかったけど」
「そうだ! 俺も子供のころ誰かに連れられて、長い時間飛行機に乗った記憶があるぞ」
 俺たちは顔を見合わせた。
「たぶん君たちはある意志のもと、紫苑と同じ病院に連れて行かれたのじゃろう。ひょっとしたら君たちの両親にも気づかれないように、軍の飛行機で連れて行かれたのかもしれん。とにかくその時に打たれていたのじゃよ、君たちは」
「打たれてたって、まさか……」
「そう、ワクチンをな。鬼頭大二郎が、わしと春樹に『鍵』と『鍵穴』を仕込んだように。彼らもまた直系の子孫に何かを仕込んだんだろう。謙介くんはO型じゃったな? ならば、『鍵穴』の方で間違いない。お嬢ちゃんがB型なら『鍵』じゃな」
「え? だったら、俺はともかくあずさは最初っから万能ワクチンを持っていたって事になりますけど」
「その通り。紫苑からの輸血は必要無かったかもしれんな。――さて、結局全員が脱落してしまったが、ビッグミリオンチャレンジは覚えているな? 紫苑と謙介くん、そしてお嬢ちゃんは初めから一緒のチームになる事が決まっていたんじゃよ。これはもちろん偶然ではないぞ。言い換えれば、その三人を会わせるためだけにあの企画はあったと言っても過言ではないのじゃ」
「え? 紫苑とあずさが『鍵』、そして俺が『鍵穴』という事は……。早い段階でその事を知ってれば、この三人だけで人類を救えたんじゃないですか?」
「君が怒るのも無理はない。だが、『神の鉄槌』作戦はすでに止めようがない状態になっていた。わしはそれとは別に、親父から君たちをこの時期に必ず集めるように言われていたんじゃ。たぶん――最後の砦としてな。そして唯一の希望は、もう一つ同時に知った事実の中にある。鬼頭大二郎がわしに当てた手紙の中に、複雑な暗号と思われる文字列があったんじゃ。それは日本軍の潜水艦が使った暗号を参考にしていると思われた。そしてそれが最近になってついに解けた。その内容は……」
 小次郎は懐から愛しむような手つきで手紙を取り出す。
「鍵穴は全ての疫病の受け皿になるだろう。そして子孫にその血によって受け継がれる。来たる数々の災厄の日に備え、絶対に血統が途切れる事がないよう鋭意努力せよ。――鬼頭大二郎」
 手紙を読み終わった小次郎は、偉大な父の顔を思い出したのか少し目を潤ませていた。
「簡単に言うとじゃな、わしの息子の春樹と謙介くんの子孫は、未来永劫に渡って『媒体』になるということじゃ。権力者が新たな病原菌をどんなに撒こうが、『媒体』を通せばすぐに『万能ワクチン』ができてしまう。だが、その存在は彼らにとっては目の上のたんこぶと化す」
「さきほどあなたが話していた『まさにその事』って言うのは、つまり俺と春樹さんの血統を絶やさないって事なんですか? じゃあ紫苑は春樹さんの息子だから、最初から『完全な万能ワクチン』を持っていたって事ですよね?」
「ああ、そうなるな。しかし、手紙を解読するまで遺伝で引き継げるとは考えもしなかったんじゃ」
作品名:ビッグミリオン 作家名:かざぐるま