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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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ビッグミリオン

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「まかせとけ」という言葉が伝わるように。


「おい、実はおまえ運転ヘタだろ」
「うるっさいわね、それよりあんた、いつの間に猿ぐつわを外したのよ」
 揺れるハンヴィーの後部座席には、彼女の荒い運転のせいで転がりまくっている春樹が口を尖らせていた。
「なあ、悪い事は言わないから俺を解放しろよ。『神の鉄槌』作戦を実行中らしいが、日本軍がなぜこれを第二次世界大戦の切り札にしなかったのか分かってるのか?」
「……なぜその名前を知ってるの? あんたのお父さんも口が軽いわねえ」
「知ってるさ。妻と離婚してから、親父の事をいろいろ調べたからな。親父の協力者は世界中にいるが、調べていくうちに協力者の中にも〈反対派〉がいることが分かったんだ」
「反対派ですって? それで?」
「言ーわない。車を止めなきゃもう教えねーよ。マジで気持ち悪くなってきたし」
 暫く前方を見つめたまま運転を続けたあと、エリザベートはしぶしぶと車を路肩に寄せて止めた。暗く不気味に静まり返った右手の砂浜からは波の音と、どこからかは定かでは無いが、助けを求める女性の叫び声が聞こえて来る。
「ありがとよ。でな、その反対派はこう言ったんだ。『無駄なことはしない方がいい』ってね」
「無駄な事ってなによ。実際すごいスピードでウイルスが広がっているじゃない。これを敵国にばら撒けば、日本は戦争に勝っていたでしょう?」
「それはどうかな。これは勝ち負けの話じゃないんだよ。あんたが思っているよりもワクチンとウイルスの問題は深く、複雑なんだ」
 彼女は意味が分からないという風に首をひねる。
「いいか? 分かりやすい例だと、インフルエンザがある。豚インフルエンザや鳥インフルエンザは聞いたことがあるだろ。これらのウイルスは実は『人間が作ってばら撒いた』んだよ。もちろんそれに対応するワクチンを用意した上でな」
「つまり、製薬会社による『自作自演』てこと?」
「そうだ。HIVウイルスの起源はカメルーンにいるチンパンジーという事になっているが、実際は人間が作ってアフリカでばら撒いたらしい。わずかな金をエサにして、貧しい村で実験体を募ってね。今は症状を遅らせる薬を小出しに販売しているが、抗ウイルス薬なんて感染前の一九五〇年にはとっくに完成されていたんだ」
「信じられないわ。まさかエボラ出血熱や、マールブルグ出血熱とかもそうなの?」
 だんだん春樹の話にひきこまれ、首を曲げて後部座席に身を乗り出し始めた。
「たぶんな。そしてそのような製薬会社を影で牛耳っているヤツらがいる。さらにそいつらを、眉の上げ下げだけで動かせる権力者も存在しているんだ。君には想像もできないだろうけどね」
「その反対派は、その事に気付いていたからこそ『無駄だ』って言ったのね」
「そうだ。戦争の筋書きさえも最初から決めているヤツらだからな。そいつらは一九六三年のケネディ暗殺事件にも関わっているんだ。もちろん九・一一同時多発テロにもな。つまり、アメリカ合衆国大統領さえもヤツらの言いなりってこった。な、全然勝てる気しないだろ」
「勝負するつもりもないけど……。あ! って事はまさか、いまのこの状態は想定されていたってこと? 待って、ちょっと頭を整理するわね。――私たちは鬼頭小次郎が黒幕だと思っていたけれど、ひょっとして彼はただ命令にしたがっただけなの?」
「正解。本当の権力者は君たちが慌てて走り回ってるのを見て、面白がっていたのかもしれないよ。だって、このウイルスは七三一部隊が作ったんじゃないんだからな。七三一部隊はウイルスを与えられ、実験していただけにすぎないんだ。『人口を適正に保つため』にな」
「人口を適正にですって? ふうん。でも私にはどうでもいいわ。とりあえず今回の生き残り競争には勝ったんだから。ヘリに行けば最新の輸血システムがあるし、じいさんとクローンも念のため連れて来てるから」
「なに? 親父も来ているのか。あんの野郎、俺の会社を潰した文句を言ってやる。いつもいつも逃げ回りやがって!」
「はいはい。もう、あなたに聞くことはないわ。二度と話しかけないでよ」
 エリザベートはアクセルに足を乗せた。
「ちょっと待った」
「何よ。うるさいわね」
「さっきの話の続きだが、今回のウイルスの他に、ヤツらはまだまだいろんな『ウイルスとワクチンのストック』を持っているって話だ。だから親父は絶対に殺さないでくれ。きっと孫の紫苑にその頭の中の情報を全部伝えたいと思っているはずだ。そしてその情報にはとてつもない価値がある。きっと紫苑は……その情報を使って、未来を変えてくれるだろう」
「はっ、親バカも甚だしいわね。あの子にそんな力があるとはとても思えないわ」
 呆れ顔でそう言うと、口紅のついたタバコを窓の外に弾き飛ばした。
作品名:ビッグミリオン 作家名:かざぐるま