ビッグミリオン
「しー! 何も言うな。勝手だけどいま俺は、リンダって人が助かってくれればそれでいいんだ」
中の液体はゆっくりと血管に吸い込まれていく。
「相変わらずカッコつけて……バカな人」
その目にみるみる涙が溢れだして、頬を伝っていく。そして、涙が落ちた片方の手はモヒカンの腕を固く、固く握っていた。
「いやあ、泣かせるねえ。十四億円の愛……か。俺にはとてもマネできねえや。さて、いいモンも見せてもらったし、そろそろ船から降りてもらおうか。俺達はこの金で豪華なシェルターでも買うよ。もう日本の仲間なんてどうでもいい。美女を片っ端から集めてシェルターに詰め込んで、豪華なハーレムを作ってやる。もうこれで、てめえらの顔を見ることもねえ。あばよ」
ナイフをテーブルから抜いてこちらに向け、威嚇するように鋭く尖った刃先を動かした。
あずさは今のモヒカンたちのやり取りを見て、感動したのか泣きじゃくっている。紫苑がその背を優しく押しながら先に降りると、他の者も次々に下船しはじめた。結局残ったのは、紫苑、あずさ、春樹、モヒカン、リンダの五名だ。
すぐにエンジン音が高く響き渡り、クルーザーはゆっくりと桟橋を離れ始めた。
「モヒカンさん! 超カッコ良かったわよ。感動してもらい泣きしちゃったじゃない。見直しちゃった!」
涙でくしゃくしゃの笑顔で、あずさはその背中をぱーんと叩いた。モヒカンは照れ笑いを浮かべながら頭をかりかりと掻くと、リンダと繋いだ手を確かめるように再び握り直した。