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屋上デイドリーム

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 と、交通整理をしているおじさんを指差した。
「何をしてるって、暇そうにしてるけどあれでも一生懸命なんだよ?今日日交通整理なんて、と言ってもよくよく聞いてみれば大会社のエリートだったり、お偉いさんだったり……」
「何してるんですかねぇ。あんな事……」
 サチも女の子に同調する。まあ交通整理なんて女の子にモテる仕事じゃないわな。でも立派な仕事なんだぞ。
「あの人は何を求めている?」
 女の子が三度問う。
「ああ、横に盲導犬がいるから募金だね。元気に呼びかけてるねぇ」
「ふふふ。」
 サチが堪えながら笑う
「え?俺何か変な事言った?」
「はっはっはっは!」
 堪えきれずに大きく笑いだした。何が何だか分からない。
「ねえ?あの人は?」
 女の子は何も気にせず、次の人を指差す。
「ええ、どれかな。あのひとがどうしたの?」
「何で生きている?」
 彼女の質問のおかしさにようやく気付いた。
「そ、そんな事分かるわけないじゃないか!あ、そうか、からかわれてたのか俺は。」
「うーん、なんで生きているんでしょうねぇ。」
 からかっていた事を認めず、女の子に同調するサチ。堪忍袋の緒が切れた。
「さっきから話が咬み合わないんだけど!」
「何怒ってるんですか?」
 サチが呆れ顔になる。
「君は分かってる振りをしてるだけだろう?もうからかうのはやめてくれ。」
「違いますよ。」
「え?じゃあ何?あの子は多分記憶喪失か何かで、君はただそれに乗っかってただけでしょ。」
「あなたがそう思うならそうなんでしょう。」
 何が何だか分からなくなってきた。ただ自分だけが取り残されているようで悔しい。
 とは言え、この子とサチはどう見ても知り合いでは無さそうだから、二人してからかっているわけではなさそうだった。
 それに実を言うと俺はこの美しい女の子に恋をしてしまっていた。
 この子を口説くためなら一日を無駄に使っても構わない。
「ねえ君、記憶喪失なら僕が色々教えてあげるよ。」
「まだそんな事を……」
 サチが呟く。
 女の子がこちらを向く。
「あなたは何を求めているの?」
 女の子が初めてハッキリと自分の目を見て問うた。どこまでもキレイな顔にドギマギした。
「君だよ。」
 思わず口をついて出た言葉。
「君の髪はとってもキレイだ。僕には透き通ってみえるよ。」
 少し冗談めかしながらも口説きの言葉を重ねる。
「かみ……」
 女の子が呟く。
「……おじさん、何言ってるんですか?」
 サチはもう完全に呆れている。
 これは嫉妬心だな。鈍感な俺にでも分かる。
 俺が女の子に入れ込んでいるから、俺を笑ったり、呆れ顔をしたりしているだけなのだ。
「そうだ、そこの喫茶店で色々話を聞くよ。」
 俺はドアの横の梯子を登り、女の子に近づいていく。
「あ、やめた方がいいですよ。」
 サチが止める。
「君には関係ない、もう帰ってもいいぞ。」
 興味のなくなったサチに言う。女の子に触れる行為は端から見たら不審者めいてるかもしれないが、そんな事はどうだっていい。俺はあの真っ白な手に触れたい。
「ね?ちょっと一緒に話そう」
 と言って、俺が女の子の手に触れようとした途端、女の子は俺の腕から逃れるように
風に吹かれて粉々になり、空中に消えてしまった。
「な、なんだ?幻覚?」
 俺は頭がおかしくなったのか?つい恥ずかしくなって、しかしサチにも見えていた事を思い出し、サチに問いかけた。
「今の見たか!君にも見えていただろ!」
「ええ、きっと天使ですよ。あれは。」
「『天使』って正真正銘の?」
「はい。あなたも最初に言ったじゃないですか。」
「あれは皮肉めいた意味もあって……」
「皮肉を感じたのはあなたでしょ。全く話が咬み合って無かったんですから。」
 サチは笑いながら別の皮肉を言った。
「あの子はいったい何なんだ?どうして君が分かって俺だけ何も分からなかったんだ!」
「私とあなたで見ているものが違っていたからでしょう。」
 サチはあっさりと答えた。
「違うものを見ていたなんてわけない!君も女の子だと確かに言ったぞ!」
「ええ、でも本当に同じ女の子ですか?かわいい、3歳くらいの。」
「へ?」
 キョトンとしてしまった。明らかにサチと俺の見ていたものは違っていた。
「いや、俺には18歳くらいに……」
「アララ……」

しばし沈黙が続く。俺は梯子を降りた。
「何か興ざめですね。もっと天使の事知りたかったのに。」
 サチがため息を付いて言う。
「俺もだよ。どう?この後二人で楽しむっていうのは。」
 今度はサチを口説こうとしてみる。
「ああ、駄目ですよ。私には帰れなんて言っておいて今更。私は酸っぱいぶどうです。あなたの醜さが分かる程度には醜い女です。」
「いや、でも君には天使の言葉が分かっていたようじゃないか。」
 サチの謙遜を否定してあげる。
「分かった振りしてるとか言ってた癖に……ええ、確かに分かります。私も捨てたもんじゃないかもしれません。でもあなたが無知すぎるのですよ。彼女は最初から物理的世界を見ていない。肉や骨や皮なんか彼女の目には映らず、精神だけが見えていたんですよ。
「それであんな抽象的な質問ばかり……」
「私は彼女の質問の意味が分かったので為になりました。本物の天使も見れて良かったです。きっとあの子、私の周りにいたんでしょう。私が話す男性が皆奇怪な行動を取った理由も分かりました。あなたも他の男と同じ、きっと天使の中に理想の女性を求めていただけだったのでしょうね。」
 図星なので何も言うことができない。
「人間が天使に恋をするのは、夢の中の異性に夢から醒めてから恋をするようなもの。届くはずはありません。」
 俺は妙なセンチメンタリズムを感じた。
「あの子が駄目なら君でも……」
 まだ俺は酔いから醒めていなかった。
「あなた、せっかく天使に出会えたのに、ちゃんと学んだのですか?理想の女性に手を届かなくしているのは、あなた自身がおかしなものを女性に求めているせいなのですよ?募金を求めているんじゃないんですよ。」
 ククッと笑うサチ。
「何で求めちゃいけないんだ!」
 バカにされたと感じイライラが走る。
「『求める事の中に答えはあるか?』それが問いの答えです。」
「何を言って……それも質問じゃないか」
「質問そのものの中に答えがあるんです。間違った質問をしない事が肝心です。適切な問いは人の心を穿ち、真理に急速に近づかせます。」
 一呼吸置いて続きを喋りはじめた。
「あなたはあなたの中にあなた以外の可能性、兆しを感じた事はありませんか?」
 サチの言葉を聞いた瞬間、全てが変わったような気がした。何かが通りすぎて、今までの全てが崩落して、世界が様変わりしたような……
 懐かしい世界にやっと帰ってこれたような永遠に続く安心……
 しかしそれもつかの間で、すぐに不安と苦痛の現世に引き戻された。
 いや、え、夢の中に戻ってきた?どっちだ?どっちが本当の世界なんだ!?
「さようなら。今日は楽しかったです。」
 ドアを開けて出て行こうとするサチ。
 無様な一言が飛び出す。
「ま、待って。さっきは悪かった。だからもう少しだけ、そこの喫茶店で話そう」
作品名:屋上デイドリーム 作家名:ユリイカ