屋上デイドリーム
彼女の瞳が大きく、深くなり、じっと私を凝視した。
この期に及んで、まだそんな事を考えているんですか。
崇高なる存在について考えてみようとは思わないんですか。
周りばかり見て、自分の中に答えを求めようとは思わないんですか。
彼女はそう言いたげな顔をしていた。俺は萎縮した。
サチは一礼すると、サッと扉を開けて、足早に去っていってしまった。
俺は固まったまま動く事ができなかった。
……そうだった。あんな幻影を見た後で、俺はまだ女性の事しか考えてなかった。
結局2人の女性の外面だけしか見ていなかったという事だ。
俺はずっと未来への期待という幻想の泥沼の中でもがいていただけかもしれない。
今までよりもずっとそれを強く感じた。痛いほどに。
それは自己陶酔していた中学の頃を思い出した時の痛み。
ああ、大人になんてなってなかったんだな、俺は。
トボトボと、いつの間にかオレンジになった空の下を歩いて帰る。
二人はどちらも天使だった。俺はそう結論付けている。
人間世界の知識を持たないが故に真理を知っている正真正銘の天使。
そしてもう一人は人間の世界に堕ちて、知識を持ったが故に真理を忘れ、また天に戻る手段を探している天使。
そんな天使がいてもいいと思った。