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第一章 旅立ち
「もう、お別れですかぃ?」
岩は物寂しそうにぼやいた。
陽は暮れ初め、もう夜に手が伸びる頃合。鳥の群れが森の頭上を掠め飛ぶ。
聖剣を手にし勇者になった青年オーロは、背中の籠へと無造作に聖剣カリブヌルスを突っ込んだ。
そこは、薬草の海だった。
「むおっ! オーロよ! 我は聖剣だぞ! 何、この仕打ち、頭から薬草の入った籠にぶち込むなんて!」
「剣先の方が頭だったんだな。」
「いやあっ! 虫ぃ! 気持ち悪い! こんなプレイ初めてッ!」
聖剣は動かせない身体のためか、声で訴えるしかなかった。
剣のくせに情けない根性丸出し。
オーロは生気の無い目でカリバーを籠から投げるように抜いた
「我! 生還!」
「生還じゃねーよ。声、涙ぐんでんじゃねーか。
とりあえずほら、岩に別れを言えよ。」
スッと、オーロは構えるようにカリバーを岩の方へ向ける。
「ルームシェアしてたお友達だろうが。」
それは、騎士が誓いを立てる姿にも似ていた。
「いいんでぇ、オーラの旦那。」
「オーロな。神秘的な力みたいになってる。」
「あっしは、人見知り……もとい剣見知りで、何百年もカリバーの旦那を孤独に晒しちまった。
こんな奴、友達でも何でもねぇや。
言うなりゃ体の関係。」
「気持ち悪いわ。」
黒くて重厚な岩に影が差す。まもなく日暮れ。そのせいか切ない容姿を連想させる。
「だから、オーロラの旦那ッ!」
「オーロな。綺麗だな、おい。」
「これからは、カリバーの旦那に寂しい思いさせねぇでくれよな。」
オーロの膝にも満たない背丈の岩は、なんだか土下座しているようにも見えて。
「この剣売り捌くんだけどな。」とは、言えなかった。
「ああ。」としか誓えなかった。
「ふん。我は孤独にはなれておる。悲しいくらいにな。」
カリバーが淡々と語り始めた。
「だから、何百年話しかけられなかった程度のこと気にするな。我は体はスリムだが、器は大きい剣だ。」
気にするな。
この程度、我が使命に比べたら微塵でもなんでもない。
言葉にせずとも、カリバーの言いたい事は、オーロにも、無論岩にも伝わる。
「ありがとう……お達者で……!」
「ああ。また使命を果たしたらここに、刺さりに帰ってくるから。
そうしたら、今度は話し相手になってくれよ?」
「……へい!」
互いに手があったら握手をするであろう。
互いに胸があったら抱擁をするであろう。
互いに瞼があったら決別に泣くだろう。
そして、笑うだろう。
再開を祈って。
「では、さらばだ! いくぞオーロ! 無限の彼方へー!」
「いかねーよ。いくのは村だ。……じゃあな、岩。」
オーロは、妙な気分に少し温かさを感じた。
会話できる剣と岩の奇妙な友情。
悪くない。安っぽい群衆劇に比べたら、得したもんだ。
カリバーは黙っている。変な所で騎士っぽい。
変な所で聖剣らしい。
「カリバーの旦那ぁぁぁ! オレオの旦那ぁぁぁ! お達者でぇぇ!」
「いやもうお前わざとだろぉぉぉ!」
それもうお菓子ぃぃぃ! ……菓子ぃぃぃ …………子ぃぃぃ―――
閑静な森林に、オーロの怒りが木霊した。