僕のチーズバーガー
予約していた店に入ると、ユミコちゃんは「素敵なお店ね」と言って嬉しそうに笑ってくれた。良かったー! この日の為に友人に聞き込みしたりネットで調べまくった甲斐があった! 値段の割には店も洒落てるし、料理も美味しい。おまけにユミコちゃんは俺を見つめながら「なんか思ってたより、ずっと優しいんだね」なんて事を吐き出す始末! これはマジでいけるんじゃないか!?
「お待たせしましたー。こちらクリームチーズのフライになりますー」
そう言って店員が料理の入った皿を置いた瞬間――
「チーーズーーーー!!」
黒丸が最大限の声で絶叫した。
「どうしたの?」
思わず顔をしかめてしまった俺を不思議そうな顔でユミコちゃんが見つめている。いかん、フォローしなくては。
「いや、ちょっと。俺、猫舌だからさ、熱そうだな~って」
「なぁんだ、そうだったの」
「ははは」
若干かわいた笑いになってしまったが、なんとか誤魔化せたようだ。
「チーズヨコシナ! ソノオンナノブンモ! ゼンブダ!」
「いただきまーす。う~ん、おいし~~」
ユミコちゃんは首を上下に振りながら、美味しそうに料理を味わっている。
「コノオンナ、トモグイジャナイカ! クッセェクッセェチーズオンナ!」
「何?」
「え? どうしたの?」
「いや、な、なんでもないよ」
いかん。思わず反応してしまった。
「クカカカカ! ナンデモナイコタァネーダロ! コーンナクッセェオンナマエニシテ! アタイノキュウカクハゴマカセナインダヨ! コイツハトンデモネェブルーチーズダ! カビデモハエテンジャネェノカ!? セイビョーダヨ、セイビョー! クカカカカ!」
「おい!」
「え?」
「あ、いや……」
やばい。どんどん不審がられてしまう。せっかく上手くいっていたのに!
「クカカカ! チーズバーガーハイイチーズ! オンナノチーズハクサイチーズ! カビマルケカビマルケ!!」
そう言うと黒丸は思い切り体を伸ばし、俺の箸からクリームチーズフライを執念で奪い去った。
「なに、今の……」
ユミコちゃんからすれば、いきなり目の前でクリームチーズフライが消えたようなものだ。
「ん? いやー、おいしいね、これ」
「え、食べちゃったの?」
「俺これ大好物でさぁ。は、はは」
「猫舌なのに? 一気に?」
「ま、まぁね」
クッチャクッチャクッチャクッチャと耳元で黒丸の下品な咀嚼音が聞こえる。
「カー! ウマイネェ! チーズハウマイヨ! アトハメノマエニコノカビチーズオンナサエイナケリャネェ。ネェアンタ、コンナヤツトヤルノハオヨシヨ。ビョーキモラウヨ、ダイイチクサクテヤッテランナイヨ。クセー! クセー! クセー! クセー! クッセエエエエエエ!!!!!」
「お前の……お前の方がよっぽど……」
「どうしたの?」
「チーズ臭ぇんだよ!!!!!! このクソ虫!!!!!!!!!!」
左肩に向ってそう叫ぶ。クチャクチャと咀嚼しながらチーズの臭いを振りまいて、あろうことかその本人に臭い臭いと騒がれてはもう我慢の限界だった。
「……ひどい」
「え?」
正面を向くと、ユミコちゃんが目に涙を浮かべてこちらを見ている。
「え? ちょ、ユミコちゃん……?」
「さよなら!」
しまった!! 思わず黒丸に反応してしまった!! 呆然とする俺をよそにユミコちゃんはさっさと席を立ってしまった。
「クカカカー! クカカカー! オワッタネ! オワッタ! シューリョーデェース!! クカカカカーー!! セービョーダイカイヒ!! クカカカカーーーー!!!」
ああ……。そうだな、終わったな。どう誤魔化せばいいっていうんだ。ユミコちゃんとはもうお終いだ。怒りを通り越して呆けながらも、それだけは確実に理解していた。