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僕のチーズバーガー

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 ファストフード店までは徒歩で10分ほどだが、その間数人の人間とすれ違った。だが俺を異様な眼で見てくる人は一人もいなく、他人には黒丸が見えないというのはどうやら本当らしい。
「いらっしゃいませぇー」
 店内に入ると張りのある声で迎えられた。
「チーズバーガー下さい」
「かしこまりました。ご一緒にポテトはいかがですか?」
「単品で」
「かしこまりました~! オーダー入りまぁす!」
 見るからにフレッシュな店員が俺の注文を受ける。ここは安さと速さが売りだ。あっという間に目の前のトレーにチーズバーガーが載せられた。
「ども」
 トレーを受け取り席へと向かう。すると左肩にグンと力が加わった。
「な、なんだ?」
 椅子を引きながら左肩に視線をやると黒丸が今にも涎を垂らさんばかりの勢いで、チーズバーガーを凝視している。
「ソレ、チーズバーガー?」
 何か言っている。
 が、無視して包み紙をはがし、思いっきりかぶりついた。
「チーズバーガー!」
 黒丸が叫ぶ。しかしその声も周りには聞こえてはいない。俺だけがこの不快感に我慢していればいいだけの話だ。
「チーズバーガー!!」
 歯をカチカチと鳴らし、今にも俺のチーズバーガーを奪いそうだが、肩からでは俺の口元には届かない。ああ、うまい。チーズバーガーはうまいなぁ。このピクルスがまたいいんだ。
「チーズバーガー!!!」
 空っぽの胃袋でチーズがとろける。ああ……。
「チーズバーガー!!! チーズバーガー!!! チーズバーガー!!! チーズバーガー!!! チーズバーガー!!! チーズバーガー!!! チーズバーガー!!! チーズバーガー!!! チー」
「うるさい!!!!」
 余りのしつこさに思わず俺は叫んだ、と同時に右手を左肩に向って振り上げた。
「ってぇ!!」
 が、黒丸は巧みに交わし、俺は自分で自分に肩パンするハメとなった。
「チーズバーガー!!! チーズバーガー!!! チーズバーガー!!! チーズバーガー!!! チーズバーガー!!!」
「うるさいって言ってるだろ!!!!!!」
 再びパンチ。だが避けられる。いってぇ……! クッソ! と目を血走らせていると、周囲のヒソヒソとした話し声が耳に届いた。
「なにあれ薬?」
「やばいって、見ちゃダメだって」
「ママー、あのお兄ちゃんなにやってるのー?」
「シッ! たっくんいい子だから静かにしてなさい」
 …………。
 他人に黒丸は見えない。黒丸の声も聞こえはしない。
 俺は自分が他人にどう見えていたかを自覚すると、背筋にすーっと冷たい汗が流れた。
 クッソーー!!
 一気に残りのチーズバーガーをかきこむと、俺は慌てて店を出た。もうあの店には行けないじゃないか!

作品名:僕のチーズバーガー 作家名:有馬音文