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僕のチーズバーガー

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 無駄と言われても、こんなものをくっ付けたまま生活するわけにはいかないので、その奇妙な物体に対し、俺はありとあらゆるアプローチを試みた。が、結果は散々なものだった。
 何度も力ずくで引き剥がそうと思ったが、疲労がたまるだけの結果に終わった。熱湯をかけてみたものの、結果は自分がやけどを負っただけだし、カッターナイフを取り出したら、塊の強靭な歯で刃を全て折られてしまった。
 塊は最初は俺を殺そうとしていたわけだが、今は俺が何をしようとも反撃はしてこない。ただクカクカと甲高い声で笑っているだけだ。
 ああもう疲れた……。
 思い起こせば俺はこの3日、金を使わずに過ごす為、塩を舐めながら水道水のみで暮らしていたのだ。だから風呂場で意識を失った、のだと思う。
 それというのも今晩、つまりあと半日ほどで俺は憧れのユミコちゃんとお食事が出来る運びなのだ。もちろん、食事代は確保出来ている。それくらいの計算は俺にだって出来る。だが3日前、ふいに思い立ったのだ。ホテル代がない――と。部屋に呼べばいいかもしれないが、部屋では警戒されてしまうかもしれない。やはり流れでホテルに入れればそれが一番だ。いや、ユミコちゃんと二人きりで食事をするのは初めてだし、彼女はいきなりホテルに行くような尻の軽い子じゃない。そうは思う、が、もし、俺だけには特別にって事があるかもしれない。男はどんな時も‘もしも’の時に備えておくべきだと、死んだじいちゃんが言っていた。

 貧乏学生のしがないアルバイト、そんなバイトの給料日までには後4日。ユミコちゃんの予定は変更できない。財布の中は心もとなく、クレカも貯金もない。だが、3日間一切の出費を無くせば、なんとかなりそうだった。だから俺は決めたのだ。3日間の断食を。
 
 で、その結果がこれ。俺の左肩の謎の生物? ああもう本当に疲れた。待ち合わせまでにはまだ時間がある。少し眠ってしまおう。きっとこれは夢で、ひと眠りして起きたら、この黒い塊は無くなっているかもしれない。
 僅かな希望を胸に、俺は静かに瞼を閉じる。
「クカカ」
 黒い塊は耳元で相変わらず奇妙に笑っていた。


作品名:僕のチーズバーガー 作家名:有馬音文