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フイルムのない映画達 ♯01

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くるったせかい



 核戦争前夜。

 ジョン・アダムス上院議員は不覚にもデスクで眠ってしまった・・・目が覚める頃にはすべてが終わっているかもしれないというのに・・・

 それは無理もない事だった。愚かな戦争が勃発してしまうのを、なんとか食い止めようと、アダムス議員は、一週間一睡もせずに、奔走していたのだ。

 中国大使館に電話をして、ホワイトハウスを訪問して・・・それから・・・余り覚えていない。とにかく一議員に過ぎない身分だが、できうる限りのことをしようと精魂を振り絞ったこの一週間。

 議員は朝日の遊んでいる窓辺に立つ・・・どうやらまだ世界は終わっていないらしい。

knknkn

 ノックの音。

「どうぞ入り給え」

 ドアが開く、国防長官がこの世の終わりみたいな顔をして立っている・・・事実この世の終わりはすぐそこなのだ。

「アダムス議員・・・」

 議員は覚悟した。

「何時から・・・ですか?」

 今日未明、大統領命令で核による先制攻撃が行わるのだ。世界は一体何時に終わるんだ?

「それが・・・今日行けそうにありません。せっかく誘ってもらったのに申し訳ありません」

「え?何のことです?」

「いや、ゴルフの約束のことですよ。今日二人で周る予定だったじゃないですか?」

 ・・・・・

 一瞬の沈黙の後、アダムス議員は笑った・・・

「長官!・・・HAHAHAHAHA!今のは歴史に残るジョークだった。だがしかし、その歴史自体がもはや終わろうとしているのだ。教えてくれ。我が軍の核は一体何時に発射されるんだ?」

 長官はFoxにpickされたようにきょとん。

「何の話ですか?」

「・・・・長官。緊張のあまりおかしくなってしまったのか?今日行われる予定の核攻撃の開始時間を教えてくれと言っているんだ!もう決定したのだろ?」

・・・・・

「アダムス議員・・・それは何かジョークの類ですか?さっきから頻繁におっしゃっている核攻撃とはいかなるものです?」

 駄目だ。長官はストレスの余りついに認知に異常をきたしたらしい。

 アダムスは、居心地悪そうに突っ立っている国防長官を尻目に、電話を掛ける。

「もしもし、アダムスです。スミス事務次官・・・教えてください。世界は何時に終わるのですか?・・・・次官・・・何を笑っているのですか!・・・ジョークではないです!今日行われる予定の核攻撃の開始時刻を・・・え・・・核攻撃とは何か?・・・嗚呼・・・貴方もですか」

 電話を切る。

「あのー、アダムス議員?」

 いつの間にか部屋に秘書のジェシーがいる。

「何かね?」

「大分お疲れのご様子ですが大丈夫ですか?」

「・・・・・大丈夫なわけがない!今から核により世界が終わろうとしているというのに」

・・・・・

「議員、世界が終わるとはどういう意味ですか?それと核とは一体なんなんです?」

 アダムスは、異常事態に気が付いた。

「ジェシー・・・今日、我が国が核爆弾による先制攻撃を行うこと、君は知っているよな?」

「・・・・すいません。おっしゃっている意味がわからないのですが・・・スケジュール帳では、今日は午前中に国防長官とゴルフ。午後からは養護施設の慰問となっております」

 国防長官も、事務次官も、ジェシーも核攻撃のことを忘れている。いや、それだけでなく、核爆弾というものの存在を忘れてしまっている。忘れているというより、むしろそれがもともとこの世に無いものであるかのような・・・

「すまない、しばらく一人にしてくれないか」

 ジェシーは「なにかご用があればお呼び下さい」と言い残し退出。

 国防長官は「子供が急に高熱を出したもので・・・」と言い訳して退出。

 アダムスは、ジェシーが置いていった新聞を手に取り、広げる。第一面のニュースは?

「主要国首脳会議がウラジオストク市で開催」

 どこにも核戦争についての記述は見当たらない。

「そうだ!」

 議員は本棚を漁る。核爆弾の脅威について書かれた専門書がこの辺に・・・・あった!内容を確認する。

目次

 □パンジーの育て方・・・・P15
 □球根植物の植え替えについて・・・・・P20
 □冬に咲く花の種類と手入れの仕方・・・・・P25
 etc

 本を閉じ装丁を確認する・・・間違いない、著者も同じだ。しかし中を開けると、園芸の趣味書に中身が変わっている。

 アダムス議員は、混乱した。そして手当たり次第に知人に電話した。

「今日、核攻撃が始まり、世界は破滅する・・・君はそのことを知っているかね?」

 電話を掛けた件数が100を超えた辺りで、議員もついに諦める。

「誰も核戦争のことを・・・それどころか核爆弾・・・いや放射性物質のことすら知らない。書籍にもwikipediaにも核関連の記述は一切ない・・・どういうことなんだ?」

 議員は思案した。午後からの予定を中止して一人議員室に篭ってあらゆる可能性について考えを巡らせた・・・そしてついにひとつの結論に達する。

「どうやったのかは分からないが、きっと核保有国のどこかが、世界中の核に関する記憶を消してしまったのだ。そうすれば、核を知るのはその国だけということになる。単独で核を保有し、世界の中で圧倒的な攻撃力を一国で独占すれば、世界を征することができるというわけだ!」

 次の日から、議員は核保有国を調べる活動を始めた。

「きっと、どこかの国に核兵器が残っている」

 議員の活動はとてもアクティブだった。ロシア、中国、フランス、イラン、北朝鮮・・・ありとあらゆる国に実際に赴き、自ら動き、諜報活動まがいのことまでやった。しかし核兵器はおろか、核兵器が存在していたという事実の片鱗さえ一向に見つからない。

 こうして核兵器を探る活動を精力的に行い続け半年が経ち。

 議員はとある病院にいた。

 拘束衣こそ着せられていないが、自由に部屋を出ていくことはできない状態・・・つまり監禁状態だ。

「私は正常だ!異状なのは世界の方だ!一体どうして核兵器のことを忘れてしまったんだ?たくさんの国が核を保有している・・・その数は2万7000発。もしもそのすべてを使用したならば、地球上の生物すべてを18回は殺すことができると言われている・・・それが本当の世界!現実の正しい世界なんだ」

 個室から漏れ聞こえてくる元議員の演説を耳にした掃除夫が、モップをかけながら呟く。

「そんな狂った世界、あるわけないだろ」