フイルムのない映画達 ♯01
俺はあの日のレシートを思い出す。
鴨肉一羽……約1700g×10ヶ ¥14000
醤油1升……1ヶ ¥980
「ネギなんてなかった!」
そう!あのレシートにはネギなんてなかった!ではあの浴槽鍋の中に蕩け、大量の繊維のカスばかりを残していたあのネギは一体……
俺は頭の中で物語を思い描いた。うっかり紛れ込んだネギと一緒に物質転移を果たし、ネギと融合してネギ人間となってしまった山田。ネギの本能のなせる業であろうか、山田ネギ人間はスーパーにて大量の鴨肉を買い占め、その鴨背負ってアパートに戻る。そして浴槽に水と調味料をぶち込んで自らと鴨肉を茹で上げる……そういう物語――俺は力無く笑いそれを宙に打ち消す。
(ネギなんてなかった!そう!装置の中にも!あれだけ念入りに異物を排除していた物質転移装置にネギが混入するはずなんて……)
ガバッ!
俺は部屋中の引き出しを開けて写真を探す……あの写真……かつての友人、山田の写った唯一の写真。とびきりの笑顔を写した遺影にも使われたあの写真。
その写真の笑顔……笑顔の中心にある山田のむき出しの歯の間に……ネギと思しき緑の……欠片が……
作品名:フイルムのない映画達 ♯01 作家名:或虎