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フイルムのない映画達 ♯01

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期待の新人



「爽やかな感じにしてください」

「はい」

 僕は今、床屋さんにいる。この後の面接に備え床屋で髪を切ってもらっている。刈りたての短い髪はきっと面接官に好印象を与えるに違いない!面接前に気合を入れておくべし――それにしても……眠い……結局2時間ほどしか寝ていないんだ……昨日……うとうと。

 *****

「……ぉ客さん……お客さん!」

 軽く肩を叩かれ起こされた。

「ふあ、すいませ、、ん。寝ちゃってましたか、、、、」

「はい。お疲れだったんですね。熟睡されてましたよ。散髪終わりましたので」

 そう言って床屋のおじさんは、僕の後頭部に二つ折りの鏡をかざし。

「後ろこういう感じになってますが」

 …………

「ちょ……ちょっとーーーー!」

「どうされました?」

「こ……これって……その…いわゆる……パンチパーマってやつじゃないですか?」

「いえ、違いますこれはフレッシュパーマです」

 …………もう一度鏡を覗き込む。

 ビフォアー――散髪前の自分頭髪は、耳や眉やうなじをもさもさと侵略し、清潔感こそ失ってはいたが、それなりに若者らしい髪型であった。
 アフター――今の自分、鏡の中の自分は……まるでチンピラのできそこないである…………まるでCGで合成したような……もしくはふざけて選んだプリクラのフレーム……

「すいませんもう一度聞きますけど、これパンチパーマですよね?」

 鏡面上で、おじさんの視線と僕の視線とぶつかる。

「いえ、これはフレッシュパーマです」

「……それはパンチパーマの別の呼び方とかですか?」

「いやだからパンチパーマではないんです。フレッシュパーマとパンチパーマは別物です」

「どこが違うんですか?」

 改めて鏡の中の自分をまじまじと見る……鏡の中の自分……もはや鏡の中の他人……

「説明させていただきますとフレッシュパーマは、パンチパーマとはパーマの当て方や行程がまるっきり違います。髪にダメージのないように、特殊な機材を使って低温でパーマを当てていくんです。そうすることで髪の状態を新鮮にフレッシュに保ちながらパンチパーマを当てることができるんです」

「ちょっとストップ!今最後になんて言いました?」

「フレッシュに保ちながら……」

「いや、その後!」

「低温でパーマを当てる……」

「違う違う!最後になんて言いました?」

「パンチパーマを当てることができる……」

「うぉい!やっぱりパンチパーマなんじゃないですかあ!」

「いや、だから、もう一度説明しますけど低温でですね髪にダメージを……」

「おじさん……髪のダメージも重要ですけど……僕が心に大ダメージを食らってるの分かりませんか」

「ダメージ?どうしてですか?……この髪型爽やかすぎましたか?」

「……僕これから面接なんです」

「そうですか……がんばってください」

「……ありがとうございます」

 …………

「またのお越しをお待ちしております」

 もはやあれ以上文句を言っても無駄だと思った。それよりも急がねば面接に遅れてしまう。

 *****

 ざわざわ

 待合室で……僕は浮いている。ほとんど宙に浮いてしまうほどに。

 ざわざわ

 「ざわざわ」という擬音が、とこんなにもハッキリと耳に聞こえてきたのは、生まれて初めての経験だ。確かに……こんな髪型では、ざわつかれるのも仕方がない。

「次の方ー」

 ――自分の番だ。ええい当たって砕けろ。

「失礼します」

 面接官5人が、いっせいに僕を見る。そして驚愕の表情。見てはいけないモノを見てしまったかのような活目具合。

 その時……僕の中で何かが弾けた

 ぷち。

 ――ええいもうやけくそだー!

「趣味ですか?仁侠映画を観ることです」

「休みの日ですか?オヤジのお供で、ベンツを運転してゴルフに」

「いえ……特に述べるような前科はありません」

「わりゃさっきからなめくさっとんのか!たらたらしょうもない質問ばっかりしおってぇ!ど玉カチ割ったろうか。おおう!?」

 以上が僕が面接で応えた内容のすべてである。

 ――終わった……

 *****

 数日後

 面接の結果を知らせる電話があった。

「おう、兄ちゃん採用や!明日から来てくれるか?」

 ブラック企業だった。