何度でも、あなたに恋をする~後宮悲歌~【完全版】
―それでも、私をいわれのない理由で辱めるというのなら、存分になされませ。
明姫の声なき声をユンは正しく理解したようである。
「まったく強情な」
軽く舌打ちを聞かせたかと思うと、明姫の身体をまるで赤児をあやすかのように優しく揺すり上げる。大股を開いた格好のまましっかりと抱き直され、更に大きく脚を裂かれた。
「これでも、まだ意地が張れるか?」
言葉とともに与えれたのは、蜜壺に挿し入れられた三本の指とユン自身であった。
「ううっ」
明姫の身体が鞠のように幾度も弾み、揺れた。
刺激的な行為のせいか、ユン自身もかつてなく大きく固くなっている。その隆とした彼自身と三本の指が同時に狭い蜜壺に入っているのだから、堪ったものではない。
「殿下、裂けて、裂けてしまいます」
涙声で訴えても、ユンは抜くどころか指を四本に増やしてきた。
「何の、これだけ嫌らしくほとびていれば、裂けるはずがない。現に、そなたの蜜壺は難なく二つを飲み込んで歓んで喰い締めているではないか」
確かに身体は歓びユンの指と彼自身を締め付けているかもしれないが、その圧迫感たるや並ではない。痛みこそないものの、腹の中にみっちりとおさまったそれらが内蔵を押し上げ、吐き気さえするようだ。
「最後に訊く。名前を言うのだ」
明姫は涙を滲ませた瞳で首を振った。
ユンが息を呑んだ。流石に極限状態まで追い込まれてなお、明姫が拒絶すると思いもしなかったのだろう。
ユンは激情の色をその綺麗な顔に上らせていた。美しい男だけに、髪が乱れ壮絶な色香を滲ませたその様は、こんなときでも見惚れるほどに凄艶だ。
「良かろう。それほどまでに庇い立ている男のために、堪えるが良い」
次の瞬間、明姫は何が起きたのか判らなかった。蜜壺の中に入り込んだユンの指が例の感じる箇所をグッとすりあげた。既に何度とない刺激で蜜壺の中はかつてないほど敏感になっている。
そこを続けて押されたのだ。眼を見開いて身体を強ばらせる明姫を、彼は更に下から烈しく突き上げ始めた。感じやすい箇所を嬲られながら、彼自身を何度もすりつけられる。
際限のない快楽地獄は彼女にこの世の最果てを見せた。天高く持ち上げられ、いきなり地上に突き落とされるかのような、凄まじい感覚。二度目よりも更に烈しい快感が彼女の全身を貫き、明姫はついに極まった。
「酷―い」
涙がひと粒、明姫の眼から零れ落ちる。
「生意気を言うからだ。良いか、今度、私に逆らえば、私はそなたを抱き殺すかもしれないぞ」
明姫の意識はそこで途切れた。
「黄内官、宮殿に帰るぞ」
鋭い一喝で、黄維俊は浅い微睡みから現に引き戻された。
「殿下」
彼はよく訓練された内官らしく、素早く起き上がり房を出た。金淑媛付きの洪女官と和やかに話しながら夕食をご馳走になった後、彼は境内にある小さな房に案内された。
これは広い境内に点在する小屋のようなもので、参詣にきた貴人たちが寝泊まりする際にも使用される。明姫の暮らす房もそんな一つであった。
夜も更け名残は尽きなかったものの、まだよく知らない間柄の女人に対しては節度を守るべきだ。それくらいの分別はある。維俊は未練はひた隠し、洪女官と別れ、一人で案内された房に戻り、軽い仮眠を取っていた。
房の前には王が立っている。
「もうお帰りになるのですか?」
維俊の問いに、王は皮肉げに口許を歪めた。おかしい、何かが違う。維俊は首を傾げる。英明で心優しい王がこんな笑い方をすることはないのだが。
「―何度も言わせるな。帰る」
心なしか端正な面も蒼褪めているように見える。
「どこかお身体の具合でも悪いのですか?」
大切な御身に何かあっては一大事と訊ねたのだが、王は憮然として首を振っただけだ。
維俊は大いなる不審を抱きながらも、この場はもう追及は控えて若い王の後に付き従った。
その四半刻後。ユンは狂ったように愛馬を走らせながら、都へと帰っていた。
―どうしてなんだ、何で私を怒らせる?
泣かせないと誓ったその夜、またしても明姫を泣かせてしまった。恐怖で顔を引きつらせる彼女を手酷く抱いてしまった。あれは単に快楽を追求するための営みではなく、明らかに苛立ちや憎悪をぶつけるのが目的だった。
自分をああまで駆り立てたものがそも何なのか、ユンは嫌というほど知っている。それは嫉妬という名の醜い感情だ。
あの時、明姫が慈鎮の名をあっさりと言えば、ユンはあんな酷い抱き方をしなかった。だが、彼女は最後まで頑固にも慈鎮の名を出さず、あの若い僧侶を庇い通したのだ。
だからといって、彼女の潔白を疑っているわけではない。女の身体は抱けば、判るものだ。現に、今夜も明姫は荒ぶる彼に怯えてはいたものの、心底から彼を拒絶してはいなかった。彼の荒々しい行為をも明姫の身体は歓んで受け容れていた。
明姫の無垢だった身体を女として目覚めさせたのも自分だし、彼女の身体は既に彼の愛撫に慣れきっている。
自分が明姫に嫌われているとは思わないし、彼女の心を疑ったこともない。おこがましいと言われても、彼女に愛されているという自信はあった。
なのに、彼女が他の男を少しでも庇ったりするのさえ、嫌なのだ。明姫が普段、自分の知らない場所で慈鎮と親しく話したり、眩しい笑みを向けているのかと想像しただけで、嫉妬に身もだえしそうになる。
自分がこんなにも狭量で嫉妬深い男だとは、これまで考えたこともなく、考えれば考えるほど自己嫌悪に陥った。しかも、彼女をこんな境遇に追いやったのは他ならぬ自分ではないか!
これでは、明姫に嫌われてしまったとしても、仕方ない。けれど、最早、明姫に溺れ切っている自分が彼女を諦めることなどできはしない。また都から一日かけてここまでやってきて、彼女が拒めば、強引に身体を開くことになる。
だが、ユンは明姫の身体が欲しいわけではないのだ。もちろん、彼を魅了してやまない豊満な肢体にこの上なく惹かれてはいるけれど、身体だけでなく、何より心が欲しい。だからこそ、明姫の心の中に自分以外の男―たとえそれが恋慕の情ではなくても、他の男の影が少しでもあれば許せない。
子どもじみた我が儘・独占欲だとも、異常なまでの執着心だとも判っていたが、明姫へのこの熱い想いだけは自分でもどうしようもなく抑制がきかない。
一度たがが外れてしまえば、理性よりも感情が暴走し、明姫を荒々しく組み敷いてしまう。
この烈しい想いは、どこに向かっているのか? ユンは激情に駆られるまま馬の腹を蹴り立て、都を目指してひたすら走り続けた。
そのすぐ後を守るように黄内官がやはり馬を疾駆させる。維俊は内心、訝しんでいた。いつもは冷静な王に一体、何があったというのだろう?
王が訪れた夜は、金淑媛は王と共に過ごすのは判っている。ゆえに、いつもは淑媛と共に寝むヒャンダンは別の房で一夜を過ごすのだとヒャンダンから聞いた。
あれほど王が愉しみにしていた淑媛との一夜に何が起こったのか? 前回は淑媛と濃密な夜を過ごし、明け方に発ったと王自身が語っていたのに、まだ夜明けにはかなりの間がある。
作品名:何度でも、あなたに恋をする~後宮悲歌~【完全版】 作家名:東 めぐみ