小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

何度でも、あなたに恋をする~後宮悲歌~【完全版】

INDEX|78ページ/126ページ|

次のページ前のページ
 

 与えられた小屋―住まいで眠りにつく夜、枕が涙で濡れていて目覚めることが何度もあったのだ。幼い頃から度々、明姫を苛んできたあの怖ろしい火事の夢よりも、最近ではユンの夢を見ることが多かった。
 何もないただっ広い野原に一人佇み、明姫は泣いている。辺りは一寸先も見えないほどの濃霧が立ちこめていて、明姫はユンを探しているのに見つからない。哀しくて堪らなくて、すすり泣いている―そんな辛い夢ばかり見た。
「そなたが泣いている夢を見たんだ。周囲は一面の白い霧に包まれて見えないのに、何故か、そなたの泣き声が遠くから聞こえてくる。まるで心を引き裂かれてしまうような哀しげな泣き声で、居ても立ってもいられなくなった」
 流石に半月前に一度やって来て、逢わずに引き返したとはユンは言えなかった。
「もしかしたら、同じ夢を見たのかもしれませんね」
「同じ夢?」
 ユンが訝しげに問うのに、明姫は頷いた。
「私も似たような夢を何度も見ました。行く手も見えないほどの白い霧が私を取り巻いていて、私はその中で殿下をお探ししているのです。でも、殿下にお逢いすることはいつもできなくて、夢の中で泣いてばかりいました」
「本当に済まない、明姫。辛い想いばかりをさせた」
 明姫を見つめるユンのまなざしが揺れ、光るものがあった。明姫はうっすらと笑んだまま、首を振る。
「謝らないで下さい、殿下。私は自分から望んで殿下のお側を去ったのです。あの時、殿下はお立場上、あのようになさるしかなかったことも十分理解しております。私は殿下がお歩きになる道の妨げにだけはなりたくなかった。たとえ、お側にいられたとしても、そのことで殿下が苦しまれるのなら、意味はありません。だから、歓んでご命令に従ったのですから、殿下は何もお謝りになることはないのです」
「明姫、そなたという女は」
 ユンが絶句し、その陽に灼けた頬をひとすじ涙がつたった。
 明姫がわざと明るい口調で言う。
「殿下、少し陽にお灼けになりましたか?」
 ユンが少し面映ゆげに笑った。
「そなたがいなくなってから、どうも気持ちが落ち着かなくてな。本ばかり読んでいては、余計に考え事ばかりしてしまう。それでは政務の合間に少しは武芸の鍛錬でもしてみるかと、弓や剣の稽古をしたんだ。内禁衛(ネグミ・王の近衛隊)の強者どもたちを相手に稽古をつけて貰ったから、これでも大分上達したんだぞ? 今、そなたに出逢っていたら、武官だと名乗っても信じて貰えたかもしれないな」
 その言葉を証明するかのように、ユンは二年前よりは肩幅も広く、腕や身体全体に筋肉がついているように見える。陽にもほどよく灼けて二年前にはどこか頼りなげな風情だったのが、今は精悍さも加わっていた。
 元々美麗な顔立ちに逞しさや男らしさが加わり、ぐっと魅力的になった。まさに美丈夫の言葉がふさわしい青年だ。
「そうですね。今なら、武官とお聞きしても、あっさりと信じるかもしれません」
 明姫が言うと、ユンは母親に褒められた子どものように嬉しげに頷いた。
 三年前、初めて宮殿の庭園で出逢った二人は、二度目は漢陽の町中でばったりと再会した。その時、ユンが咄嗟に武官だと名乗ったのに、明姫は信じなかった。あの頃が今では遠い昔のように思える。
「あの頃が随分と昔のように思えます」
 明姫が呟くと、ユンも頷いた。
「そうだな、私たちにとって、この二年はあまりにも長すぎた」
 ユンの瞳が真っすぐに明姫に向けられている。その瞳の奥底に揺らめくのは昔と変わらない―いや、昔以上に烈しさを孕んだ焔であった。そのままユンに抱き上げられるのを明姫はどこか他人事のように感じていた。

 ユンは明姫に教えられるまま、彼女を小さな住まいに運んだ。最初、ユンは物珍しげにキョロキョロと小さな房を見回していたが、ポツリと言った。
「こんな狭い場所で、そなたは二年も過ごしたのか。たった一人で洗濯や掃除をして、まるで下女のような仕事ばかりして」
 明姫は笑った。
「殿下、私は元々女官です。洗濯も掃除もお手のものですから」
「―」
 ユンは何も言わず、しばらく明姫を見つめていた。やがて、その手が伸びてきて、明姫は抱き寄せられるままに彼の厚い胸板に頬を預ける。
「私を許してくれ」
 言葉と共に、チョゴリの前紐がシュルリと音を立てて解かれた。
「こうして逢いに来て下さっただけで、私はもう何も望むことはありません」
「可愛いことを言う。そなたは相変わらず男を歓ばせるのが上手いな。それでは、こっちも変わらず私を歓ばせるのに長けているか確かめてみよう」
 笑いを含んだ声音がわずかに熱を帯びて掠れている。熱い吐息混じりの囁きを耳朶に吹きかけられ、明姫の身体に妖しい震えがさざ波のように駆け抜けた。
 既に馴染みがありすぎるほどある、この感覚は二年間、味わうことのなかったものだ。
 顎に手をかけて上向かせられ、唇が降りてくる。最初は啄むように何度か唇を落とされ、すぐに貪るように吸われた。舌を差しいれられると、明姫も待っていたように自らの舌を絡める。互いに強く舌を吸い上げ、烈しい水音が狭い空間にどこか淫猥に響き、明姫の口からは飲み込みきれなかった唾液が滴り落ちた。
 唇を深く合わせながらも、ユンは手慣れた様子でチョゴリを?がした。胸に巻いた布越しにつんと立ち上がった乳房がはっきりと存在を主張している。ユンは布地越しに手触りを確かめるように、豊かな乳房の突起を強く押した。
「あっ」
 思わず声を上げてしまった明姫を見つめるユンの黒い瞳が艶っぽさを増す。
「久しぶりに明姫の愛らしい啼き声を聞いた」
 その声がユンの最後の理性の糸を断ち切ったようだった。ユンがいきなり獣と化し、明姫に襲いかかった。幾重にも巻かれた胸の布がするすると解かれ、乳房を露わにされる。
 二年前よりぐっと豊かにふくよかさを増した胸のふくらみを骨太の指で包み込まれただけで、珊瑚色の唇からはすすり泣きのような声が洩れた。
 今、明姫は上半身は裸で、ユンの膝にまたがっていた。下はチマをまだ付けているものの、その下のズボンや下穿きはとうに脱がされてしまっている。チマの裾が大きくまくれ上がったその下からは、白い眩しい太腿が露わになり、何も身につけていない全裸よりも、かえって淫らに見える。
 深く唇を合わせ、何度もチュッチュッとキスを落とす音の狭間に、ユンは明姫の乳房を揉みほぐし捏ね、更には空いている方の手指が何もつけてはいない下腹部に伸び、秘められた狭間をさまよった。
 やがて悪戯な指先が一本、秘口に差し入られられると、明姫の華奢な身体が跳ねた。ユンは明姫の両肩を押さえ込み、更に指は数本に増やされる。口も胸も秘所もすべてがユンによって犯されていた。
「あぁっ、う―」
 艶めかしい喘ぎ声がひっきりなしに洩れ落ち、その度にユンは愛しい女の声すら誰にも聞かせたくないとでもいいたげに、明姫の唇を塞ぎ狂ったように吸った。
 その夜のまじわりは互いに逢えなかった二年という空白を埋めるかのような烈しい営みとなった。
「もっと良い声で啼いてみせてくれ」
 秘められた肉筒の奥深く、幾重もの襞をかき分けた最奥を指でなぶりながら、ユンは明姫の耳許に熱い吐息混じりの声を注ぎ込む。