何度でも、あなたに恋をする~後宮悲歌~【完全版】
出産に立ち会った崔尚宮が興奮した面持ちで産殿前に集まっていた人々に叫び、すぐに大殿のユンの許にも知らせが行った。ユンは明姫の出産に立ち会いたいのは山々であったのだが、以前、温嬪の出産の際、産殿に待機して待っていたら信じられない悲報が届いたこともあり、不吉な前例を嫌い、今度は大殿の執務室で吉報を待つことにしたのだった。
果たして、二度目は無事に王子出産の朗報が大殿(テージヨン)にもたらされた。ウンは生まれたときから健康そのもので、乳もよく呑んだ。生後何日かは明姫は自分の乳だけを与えるつもりだったのに、早々に明姫だけでは足りなくなり、出産前から内定していた乳母が急遽呼ばれ、明姫と乳母の二人がかりで乳を与えてやっと間に合ったほど、健やかな赤児であった。
痘瘡で亡くなるまで、病気らしい病気もしたことがなかったのに、その元気そのものだった子がわずか四日で幼い生命を散らした。
親としての嘆きは深いが、今から思えば、やはりこれも、あの子の運命だったのだろう。ウンは両親に数え切れない想い出を与えてくれ、天上の国へと還っていった。あの子の死を嘆き悼むよりも、今はもう、たとえ短い間でも、あの子の母であったことに誇りを持ち、その愛らしい在りし日の笑顔を支えにこれからの生涯を生きていこうと思う。
今、あの夏の日にウンが見せた笑顔を思い出し、明姫はふと長い一つの洞窟を出たように思った。まるで明姫自身がたった今、母の胎内からこの世に生まれ出てきたかのように新鮮な気持ちで、身体の奥底からふつふつと生きる力が湧いてくるようでもあった。
不思議なものだ。ひとたび元気が出れば、今朝まで沈みがちだった心まで軽やかになっていく気がする。ウンを失った哀しみに閉ざされていた心が春の陽溜まりにゆっくりと溶かされてゆく。
明姫の胸中を知ってか知らずか、ユンが彼女の髪を撫でながら呟いた。
「私はそなたと生きる道を選んだ。ゆえに、そなたがそれを後悔しないでくれ」
そう、ひと月前にも、ユンは同じ言葉をくれた。
―私と生きることを後悔などしないで欲しい。
あの夜もここで二人は烈しく互いを求め合い、何度も身体を重ねた。その折、ユンは今夜と同じ科白を明姫に囁いたのだ。
ならば、私もあのときのように何度でも同じ科白を返そう。明姫は妖艶に微笑んだ。
「後悔などしたことはありません。たとえ何度生まれ変わったしても、明姫は殿下をお探しして、また好きになるでしょう」
そして、大好きな殿下のお側にいられるなら、たとえ我が身はどうなろうと、けして後悔はしません。何より、この道は誰に強いられたものでもなく、私自身が選んだものなのですから。
言外に想いのたけをこめて見上げると、ユンが眩しげに彼女を見た。明姫はわずかに眼をまたたかせてから、問うた。
「殿下、一度お訊ねしようと思いながら訊けずにいたのですが、何故、そのような眼で私をご覧になるのですか?」
まるで眩しいものを見ていられないように、ユンは出逢ったときから夫婦として六年連れ添った今もまだ、時々、こんな眼をする。
「そなたの眼に、私はどのように映っている?」
明姫は小首を傾げ、慎重に言葉を選びつつ応えた。
「何か眩しいものをずっと見てはいられないように、例えば夏の太陽から眼を背けるような感じとでも申しましょうか」
ユンが軽やかな笑い声を上げた。
「なるほど、そなたの物言いは言い得て妙だ。確かにそのとおり、眩しいゆえ、そのような眼で見つめるのであろうよ」
「私が眩しい?」
明姫は首を傾げながら、自分の頬をこすってみる。どこか、おかしいところがあるのだろうか? 今夜もユンに逢うために、ヒャンダンに念入りに化粧して貰ったのだけれど。
「あの―、私の顔に何かついているのでしょうか? 女官時代からお化粧はあまり得意ではありませんでしたし、いつまでも野暮ったさが抜けないのも重々自覚しております。でも、六年前ならともかく、いまだにまともに見られないほど、おかしいところがあるのであれば、教えて頂ければ、頑張って直してみます」
ふいにユンが腹を抱えて笑い出した。
「?」
自分は真面目に話しているのに、何がそんなにおかしいのかと明姫は恨めしさに涙眼でユンを見た。
「それ、そなたのそのようなところが私にはいつまで経っても、眩しいのだ。あまりに可愛くて、魅力的すぎて、眩しすぎて見られない」
もしかして、これは褒められている?
明姫はまたも小首を傾げながら訊ねた。
「殿下、それは褒めて下さっていると思って良いのですか?」
「昔から、そなたは変わらぬ。そなたと共にいると、私は王でも何でもない、ただのイ・ユンという一人の男になれる。それがとても心地よいのだ。そなたは本当に天から遣わされた私だけの宝だな」
―そなたは私の宝だ。
ユンは顔を見る度に、臆面もなく言う。それが明姫には照れくさくもあり、また嬉しくもあった。嬉しいのは何も愛されたのが国王だからではない。彼の言うように、イ・ユンという一人の男にここまで愛されたことが明姫にはこの上ない歓びであった。
「私の方こそ、神仏に感謝しております。殿下のような方にお逢いできたことを」
「そのように可愛いことを言っても良いのか? そなたは本当に、男をその気にさせる達人だな」
ユンが小さく笑う。その切れ長の黒瞳に、艶めいた光が灯ったのを明姫は悟る。再びやわらかく褥に押し倒された。肩に羽織っただけの夜着の合わせを開かれる。
明姫の乳房は元々豊かであったが、妊娠してからは更に一回り大きくなった。その大きな乳房の薄紅色の突起は既にこれから始まる甘いひとときに期待してつんと立ち上がっている。
更に妊娠中は乳房があり得ないほど敏感になるものだ。これも前回のウンを身籠もっていたときとまったく同じだ。ユンはそんな明姫のすっかり敏感になってしまった突起を銜え、舌で転がしたり引っ張ったりして、彼女は胸への愛撫だけで幾度達してしまったか知れたものではない。
ふいに乳首をすっぽりと口に含まれ、明姫は華奢な身体を弓なりに仰け反らせた。悪戯な舌は蜜壺だけではなく、今度は明姫の過敏になった乳房の突起をなめ回し始める。乳輪を温かな舌で円を描くように舐められ、明姫はあまりの気持ち良さに腰を浮かせた。
「ううっ」
ユンはまた含み笑うと、明姫の波打つ乳房を片方ずつ時間を掛けて丹念に嬲ってゆく。彼が片方を解放し、次の乳房へ愛撫を始めると、それまでさんざん嬲られていた乳房はふるりと震える。まだ唾液に濡れて淫猥な光を放つ突起はもう一度触れて欲しいと貪欲に訴えている。
外は二月、室内は暖房が効いているものの、素肌で抱き合うには寒い季節だ。放っておかれる乳房の先が濡れ、夜気に触れれば、その刺激さえもに感じてしまう。そんな淫らな自分があまりにも恥ずかしすぎて、明姫は声を洩らすまいと懸命に手で口許を押さえる。それでも、押さえきれない艶めかしい声は、くぐもり洩れ出てくる。
空いている方の乳房に触れて欲しくて、明姫は無意識の中に両手をユンの首に回し、彼の顔を自分の乳房へと導いた。
ユンがまた誘われたように、空いている方の先端にチュッと音を立てて口づけを落とす。
「あぅっ」
作品名:何度でも、あなたに恋をする~後宮悲歌~【完全版】 作家名:東 めぐみ



