言の寺
声のするほう
「もしもし……」
「もしもし……」
聞き慣れたアイツの声
何処から聞こえてくるのだろうか
俺は方位磁石をテーブルに置き
東京の方角を探った
「どう……そっちは?」
「うん……人がいっぱいだよ」
「そりゃあそうだろ」
俺は笑った
それから
磁石が教える方角
声のするほうを確かめて
俺はそちらに向きなおし
もう一度笑った
そしてこう言う
「あのさぁ」
「なに?」
「今、オマエの声のするほうを向いて喋ってるんだ」
「なにそれ?どういうこと?」
「ふ、また帰ってきた時に教えるよ」
目の前はくすんだ壁
でもその向こうにはアイツがいる
俺は声のするほうに
花かなんか飾ろうかなと思った
「俺待ってるからな」