首なし殺人事件
早朝のジョギングとしている人とすれ違うたびにドキドキしながら
長い坂を登っていると前にレンガ造りのカフェが現れた。
もちろんこんな時間から開いているはずもないが、その横に小さな階段が
あるのを見つけた。
そこの二階にあるのが咲嶋探偵事務所・・らしい。
電気が着いているのを確認してドアを少しだけ開ける。
「お、お邪魔します。」
静かな部屋の中に俺の声が響いた。
「お、来たか。そこら辺に座ってろ。鞄はデスクの上に置いておけ。」
奥にいたらしい琉は少しだけ顔を出し、そう言うとすぐに消えてしまった。
とにかく言われた通り座っていると、コーヒーを持った少し眠そうな琉がすぐに現れた。
「全くお前はよく事件に遭遇するな。」
「う・・」
もちろん言い返せる訳がない。
高校生のときから何かと事件に巻き込まれていた自覚はある。
二つ入れたコーヒーのうち一つを俺の前に出す。
昔から変わらない、甘いカフェオレだ。そんな些細な事まで覚えてくれているのかと
また涙腺が緩みそうになる。
「とにかく、死体の顔を見とくか・・」
コーヒーを片手に琉が鞄を開く。
「!!」
(まぁあんな怖い物を見てコーヒーなんてのんきに飲んでられないよな・・)
死体の首なんて見慣れているはずもない。
「・・・」
琉は俺の前にあるソファーには座らずデスクの椅子に座った。
「?」
どうも様子がおかしい。
青ざめる訳でもないし、うろたえているようにも見えない。
「なぁ・・この首持ってた女の顔本当に覚えてないか?」
「え?帽子を深くかぶってたし、暗かったから見えなかったよ。」
琉はさっきまでの眠そうな顔ではなく、真剣で考え事をしているようだった。
「そうか・・よし。出掛けよう。」
そういうとコートを持ち、首の入った鞄を持って立ち上がった。
「出掛けるって?警察に出頭するのか?」
その覚悟は出来ているが、琉ならなんとかしてくれると言う考えが裏切られたような感覚だった。
「警察じゃないさ。でも警察官には会う事になるだろうな。」
「え?どういう事だ?」
「着いてくればわかるさ」
そういうと琉は俺を立ち上がらせ、外へと追い出した。
そしてあっという間に近くの駐車場に置いてあった車に乗せられてしまった。
「なぁ、どこに行くかくらい教えてくれよ。」
動き始めた車の中で琉に聞く。
「お前が捕まらなくてもすむかもしれない場所だよ。
とにかく、今は寝とけ。お前凄い顔してるぞ。」
確かにここ数日は眠れない夜を過ごしていたから、車の暖かさと心地よい振動で
だんだんとまぶたが重くなってきていた。
「大丈夫だ。必ず助けてやるさ。」
眠りに落ちる直前そんな琉の声が聞こえたような気がした。