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白き削除屋(デリーター)

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「血糊といえども普通の血糊とは違い、実際の血の成分とほとんど変わらないものですがね。あなたを騙すには、これほどまでしなければならなかったでしょうし、高い出費でしたが、まあよしとします。」
ルインとツェリライに続き、カウルが先を引き取る。
「あんたは随分と目がいいみたいだ。おまけにその場その場の状況判断を瞬間的に、正確に導き出すことに長けている。それがあんたの強みなんだろうけどな。だからそれを利用させてもらった。」
「いいチームワークで連携攻撃を仕掛けてくれば、その連携を作り出している頭脳(ブレイン)を破壊することを、お前だったらすぐに気がつくよね。だからあからさまにツェルを司令塔にさせてお前の的にさせてもらった。」
「そして僕が撃たれ、死という形であなたの認識から完全に僕という存在が消された。その隙を突いて動きを止めさせてもらいました。因みに、今あなたの動きを止めているもの、あなたの銃弾を防御したものはQBUと名付けた僕の発明品です。」
「という訳で、『この一度がだめなら二度、二度がだめなら三度までも、数の暴力バンザイ作戦  と見せかけて実は司令塔が囮で裏からこっそり拘束、そのまま一気に片を付けちゃうぞ作戦』大成功!発案者はカウルだけどね。」
「そんな長い名前付けていないけどな。まぁ、という訳だ。あんたはもう完全に詰みの状態に陥ったわけだが。」
カウルはゆっくりとデリーターの元に歩み寄り、その顔を覗き込んだ。
「この状況でなお一切の反応なしか。   デリーターという組織は、あんたに何を吹き込んだ?目的はなんだ?」
しかしデリーターは、粘度の高い沼に石を投げたかのように、カウルの質問を飲み込むだけ。そこから返ってくるものは、何もなかった。
「本当にやれやれだな。俺も長いこと大勢の敵と戦ってきたが、あんたみたいなのは初めてだよ。ま、聞いても答えない以上、これ以上聞いても意味ないか。じゃあツェリライ、最後はお前に譲るよ。よろしく」
カウルがその場を離れ、ツェリライにバトンタッチ。ツェリライとデリーターが一対一で向かい合う形となった。
「ありがとうございます、カウルさん。では始めさせていただきますか。」
ツェリライが、まるで演奏を今まさに始めんとする指揮者のように左手を上げる。
それに倣い演奏者、もといQBUの群れが一斉に各々動き出した。
あるQBUはレーザーで射抜き、あるQBUはレーザーをまとった槍と化し突く。緻密な計算により作り上げられた蒼き舞は、見る者を感嘆の息で満たす。
「これはあなただけのために作りだされた舞台。決して降りることを許されない、久遠の舞台です。
さあ存分に舞ってください。業苦という名の舞曲を!」
ツェリライが後ろを向く。そして、強制的に踊らされ続けた相手に、舞台の終幕を告げるため、指を鳴らした。
「Distress(ディストレス) waltz(ワルツ)!!」
舞台の終焉を告げる、動きを捕捉した状態からの一斉射撃。最後まで踊らされた演者は、立つ力を失った。


「今の技名と動き、だいぶかっこつけてるわよね。」
アコが素朴に棘を刺したのに対し、ツェリライが即座に反撃する。
「突然僕の家に押しかけたと思ったら、本棚をあさって技名を考案していたアコさんに言われたくはありませんね。」
「ちょ!?言わないでよ!このことだけはみんなに内緒にしていたのに!!」
怒ったアコの顔が赤くなっているのは、怒りのせいなのか羞恥心のせいなのか。
そんなアコにお構いなく、ツェリライが最後の後始末に取り掛かる。
「敵機撃破完了。あとは治安部隊に通報するだけですね。」
そう言って携帯電話を取り出したツェリライを、ルインが止めた。
「ん〜、やっぱそれキャンセルね。」
「は?」
呆気にとられる一同をよそに、ルインつかつかと歩み寄り、刀をデリーターの喉元に突き付けた。
「お前、僕ん家に来なさい。ちなみに返答は、はいかYES以外受け入れないからそのつもりで。それ以外を言った場合、わかってるね?」
「はぁああ!!?」
異口同音の大合唱。流石にその発想はなかった。
「お前は一体何を言っているんだ?」
「ついに気が狂ったか?」
「気が狂っているのは普段からですが、今回は特別更に狂っていますね。」
言いたい放題の連中の言葉に耳を貸すと、切っ先を向ける方向を変える必要性が生まれてしまうので、ルインは無視する。そのまま、僅かに眉が上がっているように見えなくもないデリーターに話しかける。
「この前お前が暴れてくれたおかげで、家めちゃくちゃになったんだよねぇ。幸い保険が下りたから被った損害は0に近いけど、気分的に非常に宜しくないわけだ。という訳で、僕のところでタダ働きしてもらいましょうか。」
ずけずけと口を挟む隙も与えず、一方的にまくしたてるルイン。
「い、いや。でもさ、その男はルインの命を狙っていたんだよ?自分家に置いて、また狙われたらどうするつもりなのさ?」
という常識人のレックが聞くと、非常識人はさらりと返した。
「その時はまたフルぼっこにすればいいだけ。だってさ、どうにも腑に落ちないというか、癪なんだよねぇ。」
「何が?自分がとどめを刺せなかったこと?」
「いや、そうじゃないよ。こいつがどんな状況になろうと表情一つ変えなかったことさ。」
「はい?」
まるで理解ができない、というより理解したくないという周囲の表情に、ルインは必至で伝える。
「ほら、なんというかさ、今の自分の力じゃ持ち上げられない岩とかあったらさ、何としてでも持ち上げてやりたいって気にならない?」
「う〜〜〜〜ん・・・。」
同意できるようなできないような。微妙な空気が漂う。
「それでルインさんは、一切表情を変えなかったこの人を家に連れ込み、何としてでも無表情を覆したいと、そう考えているわけですね?」
「まぁ、早い話がそういうことかな。」
「それ即ち、あなたはこの人を自分の玩具にしようと企んでいるわけですね?」
「そう・・・って人聞き悪いこと言わないでくれるかな?」
と、ルインが反撃するが、周りは自重しない。
「やだ、旦那さんってば、聞きました?あの人、人の事をおもちゃにするなんて言ってますわよ?」
「鬼畜の所業だな。」
「う〜ん、とりあえずハルカに近づいてくれるなよ?」
カウルまで悪乗りし、残りの二人はどっちつかずの立場になっておろおろしている今、完全孤立状態になってしまったルインは、大きく息を吸い、窓ガラスを割る勢いで叫んだ。
「じゃああかぁあああしぃいいい こらあああああ!!!」


「・・・というわけで、家に来てもらうよ。拒否権?使ったらそのまま流れ作業で地獄行きね♪」
有も無も言わせるつもりがさらさらないようだ。それを感じ取ったのか、デリーターは無言で小さくうなずいた。
「よし、じゃあ名前を聞きましょうかね。あなたのお名前は何でしょうか?」
その手に握られていない架空のマイクをデリーターに突き付けるルインだったが、突きつけられた相手はしばしの沈黙の後、こう答えた。
「名はない。」
「へ? 名がないということは、名無しの権兵衛ってこと?」
黙って頷くデリーター。
「ふぇ〜〜。そうか、そうですかぁ。だったら僕らでなんか考えようか。  って、あれぇ?」