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白き削除屋(デリーター)

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事態は、大体ルインの思惑通りに進んだ。唯一誤算があったとすれば、騒ぎが大きくなりすぎて、落ち着くのに二週間以上たってしまったことと、ルインが勝手なことをしないように、騒ぎが落ち着くまで保護という名の自宅謹慎を食らったというところだろうか。


そして二週間と数日後、騒ぎもようやく下火になり、ルインも傷が大体癒え、外に出てもお咎めが来なくなった。
というわけで、ルインは缶詰をくらって滅入った気を晴らすため、一人のんきに散歩に出た。
街道を練り歩き、特に行き先もなくぶらぶらし続ける。やがて、人はいないがそこそこ広い裏道へと入って行った。
遠くに聞こえる喧騒。ここで大声をあげても、おそらく表までは届かないだろう。
「さて、ここなら誰にも迷惑をかけないんじゃないかな。  というわけで、出てきたらどう?」
ルインは誰もいない空間に呼び掛ける。すると、呼びかけた方向とは別の方向から、あのデリーターが姿を現した。
「あらら、そっちだったかぁ。う〜ん、まだ方向までははっきり分からないなあ。」
ルインが自己分析をしているのをよそに、デリーターは問いかける。
「  何のつもりだ?」
「何のつもりって、そりゃお前をおびき寄せるためさ。大方僕がここに入って、そのあと隙を見せたら撃ち抜くつもりだったんだろうけど、生憎そうは問屋が卸さない。  さて、始めようか。」
ルインの言葉が終ると同時に、唐突に極太な木の根が生え、道を完全に塞いだ。
「木霊(ククノチ)  ホルズケージ。これでいい?ルイン。」
ルインとデリーターがいる、木の根に囲われた場所の外から、アコの声が聞こえた。
「うん、おっけ〜だよ。アコちゃんはそのままそこでこれ維持しといて。さて、デリーターさん。これ見ればわかると思うけど、これはおまえの銃で破るには骨が折れるし、仮にそれができたとしても、破ったはなから即再生するから、するだけ無駄だよ?だから、大人しくここで楽死んで逝ってね?」
物騒なイントネーションで発せられたルインの話が終わらないうちに、デリーターは上から殺気を感じ、すぐさまそこから飛び退いた。
直後、カウルの一撃がそこに叩き込まれた。
「やっぱり当らないか。奇襲は割と得意だったんだがな。あんたにはかなわないな。だが、これならどうだ?」
再びカウルは、デリーターに向かって飛びかかる。一足で初速から最高速まで加速するそれは、常人には見て取ることなど決してできるものではない。
だが、相手は余裕をもってそれを横に跳んでかわした。
その直後のことだった。
「頭ががら空きだぜ?  オラァ!!」
上から降って湧いたようにグロウが現れ、ハンマーを振り下ろす。それでもデリーターはグロウの攻撃を回避する。が、その先にレックの焔連弾とハルカのクナイの一斉射撃が待ち受けていた。
土煙が上がる。
「どうだ、この『一度がだめなら二度、二度がだめなら三度までも、数の暴力バンザイ作戦』は!」
ルインがこれ見よがしに吠える。
だが土煙が晴れと、そこから汚れてはいるものの、目立った外傷は一切ないデリーターの姿があった。
「おいおい、今ので無傷かよ。どうやって攻撃をさばいているんだ?」
ここまで来ると逆に興味がわいたようだ。カウルは興味深そうに相手をまじまじと眺める。
「カウルさん。お気持ちには同意しますが、今は目の前の敵を撃破することを優先させてください。」
と、木の根の上からツェリライが指示を出す。
「ああ、わかっている。よし、次いくぞ。」
「おう!」


それから、執拗なまでに攻撃が続けられた。さらに、ただ数の暴力でたたみかけて来るのではなく、上からツェリライが状況判断と指示を出しているので、意外とチームワークが整った連携攻撃を繰り出してくる。
それゆえに、相手の数は実際の人数の倍以上の戦力を誇っていられるのだ。
そこまでを戦闘中に思考したデリーターは、状況の打破のために最も効率のいい手段を選択した。
ルインたちを隅に誘い込み、攻撃を回避したその直後、この戦いの司令塔となっているツェリライに向かった発砲したのだ。
司令塔という役割に徹していたツェリライは無防備、他の仲間はツェリライと正反対の位置にいるため、援護が間に合うはずもなかった。
「ツェル!!」
銃弾は真っ直ぐツェリライの胸に命中。そこから一斉に血が噴き出した。
声を上げることもなく、前のめりになって木の根から落下。そのまま力なく地面へ落ちた。
「ツェリライさん!!」
ツェリライ駆け寄り、無防備になったハルカに銃口が向けられる。
「させるかよ!」
間一髪でカウルがそれを止めた。そこで、状況は膠着した。
「まったく、やってくれたね。他人の仲間に手をかけた以上、それ相応の覚悟はできてるんだろうね?」
ルインのあの、背中を突き刺すような静かな殺気が響く。だが、それを前にしても、デリーターは一切の反応を示さなかった。
相手を一人倒したという安堵も、目の前で殺気をむき出しにしている相手に対して恐怖や闘気を抱くこともない。
それはまるで、今自分たちの眼前にいるこの男は、本当に人なのか。はたまた人の姿をした機械、つまり人造人間なのかと錯覚させるほどに。
そんな様子のデリーターを見て、ルインはため息をついた。
「やれやれ、威竦みのしがいがないね、全く。そんな周囲のことにオール無反応でさ、生きてて楽しいの?」
「・・・・・。」
ルインがそう問いかけても、やはり相手は無反応だった。
「無視ですかシカトですかそうですか。ま、いいけどね。おかげで時間稼ぎはできたしさ。じゃ、行くよ。」
ルインがデリーターに一足跳びで跳びかかる。そこから放たれた一撃をデリーターは一切回避することなく、真正面から受け止めた。
吹っ飛ばされるデリーター。
「おやおや?どうしたのかな、そんなぼさっと突っ立ってて。回避なり反撃なり、なんか対応しないとやられるよ?」
そう言いつつルインは再びデリーターに向かっていく。またもやデリーターは、ルインの一撃をもろに受けた。そして、倒れた状態のまま動かなくなった。
「あぁ〜もう。憂さ晴らしで少しは弄ろうと思ったのに、ここまでノーリアクションだとさすがに興ざめするね。少しは『んぎぃ!!なぜだ!?なぜ体が動かん!?』ぐらい言っても罰は当たらないと思うだけなぁ。」
やっとのことでデリーターが立ち上がる。だが、再びそこから動かなくなった。いや、動けなくなったのだ。
「ま、いいや。このまま待っててもずっとその状態でいるような気がするし、とっとと種明かししようかな。ツェル〜、もういいよ、ごくろーさん。」
ルインが、先ほど撃たれて動かなくなったツェリライに呼び掛けた。すると、ツェリライはいたって平然と、なんてことなかったかのように起き上がった。
「死体の演技というのも、なかなか味があるものですね。」
なんか言ってる。
それを無視してルインはデリーターに説明し始めた。
「ま、もうわかってると思うけど、ツェルは血糊使って死んだふりしてただけなんだよ。もちろんその時のみんなの言動は、全部練習した演技ね。」