白き削除屋(デリーター)
相手は勝負を挑んでくるのではなく、ルインの命を取りに来るのだ。それはつまり、どれほどの時間がかかろうとも、どんな手段を使おうとも厭わないということ。当然、気が休まる時が来るとは思えない。
重くなった空気を、取り敢えずなんとかしようと、レックが口を開いた。
「で、でも、なんでルインはデリーターに狙われなければならないのさ?狙われる理由なんてどこにもないじゃないか。」
「レックさん。その言葉は、心からの本音で言っていますか?」
ツェリライが冷静に切り返す。その物言いに、レックは言い返そうとした。
「それは勿論! ・・・」
その通りだと続けようとしたレックの脳裏に、これまでの過去が浮かんできた。
基本的に、目的のために手段を選ばないルイン(時には手段が目的を凌駕していたこともあった気がする)。
やむなく戦闘になった時、必要以上に相手を罵倒し怒らせていたルイン。
「勿論・・・」
声に覇気がなくなっていく、さらに回想は続く。
たまに外に出たとき、明らかに良くない雰囲気が漂う場所に、興味本位で首を突っ込んで滅茶苦茶にするルイン。
その際にまた余計なことを言って相手を逆上させ、その後必要以上にフルボッコにするルイン。
一通りの回想が終わり、レックは絞り出すように答えた。
「本音で言っている。と言うと嘘にならないこともない。と言っても過言ではないような気もしないでもないかもしれない。」
何とか言いきったレックに対し、ツェリライは取調室で容疑者に優しく自供を促すように語りかけた。
「レックさん。無理しなくていいんですよ。文法が滅茶苦茶です。」
「はい・・・。」
レックはがっくりとうなだれた。力尽きたレックの横で、湿った声でルインがなじった。
「・・・皆してひどくない?」
「自業自得だ。」
「そんなあなたに因果応報という言葉を送らせていただきます。」
「その言葉って、日頃の行いは自分に返るって意味だよね?」
「ええ、その通りですよ、アコさん。」
まさにハートフルボッコ状態。レックに続いてルインもうなだれた。
「あの・・・、少し可愛そうではないですか・・・?」
完全アウェーの空気の中、ハルカがおずおずとルインを庇ってくれたのが唯一の救いだったと言えよう。
「さて、落ち込みタイムはこの辺にしといて、何か対策を考える必要があるね。どうしようか?」
ルインはさっと気持ちを切り替え、デリーターに対抗する策を考えることにした。
「あたしならいけるんじゃない?あいつがよけられないくらいの範囲が大きい技を使えば一発で。」
開口一番、アコが提案する。
「わぁお、なんという脳筋戦法。」
「でも効果的ではあるんじゃないか?あいつの反応速度はかなりのものだった。俺が隙を突いて仕掛けたが、難なく対処された。さらに言うならハルカのあの不意打ちも完璧にかわされた。その点、アコが避けられないほどの広範囲の技を使えば、うまくいけば一発でカタがつく。」
「確かにそうだね。でも問題は、向こうがそれを使わせてくれそうにないところにあるんだよね。」
「というと?」
「いや〜、あいつ目と判断力がかなりありそうじゃん?だってハルカちゃんとカウルの不意打ちをあっさり避けて、そのあと引っ張ることなくすぐに退散した。やってのけたことはシンプルだけど、意外と簡単なことじゃないと思うんだよね。」
「まあ、それは言えているか。相手の不意打ちにも容易く反応する反射神経。状況が不利になったと見るやすぐに撤退する無機質なまでの判断力。遠近戦共に対応できる銃拳術。
なんか相手の特徴を上げていくと、非の打ち所がなさすぎる気がするんだが。」
「奇遇ですね。僕も同じことを考えていましたよ。唯一対抗できる術があるとするなら、力で押し切ることのみ。問題は、いかにそれができる状況に追い込むかですね。」
その答えを見つけ出すため、全員頭を悩ませる。
と、そんな中グロウだけが若干考えることがバカバカしそうに言い放った。
「そんなに難しく考えることかよ?てめぇの攻撃を対応されるんなら、向こうが対応できなくなるまで打ち続けりゃいいだけの話だろうが。」
まあ、言っていることは的を射ている。的を射てはいるのだが・・・。
「どうしてこう、ここの面子は脳筋さんが多いんですかね?それができれば簡単だけど、その対応には反撃っていうものだってあるんだよ?そこんとこ考えてる?」
「たかが銃弾くらった程度で死ぬか。」
さもそんなことは当然だというような口調で言われても・・・。
「ええ死なないでしょうね。グロウだけは。他のみんなは普通に即死レベルなんですけど。」
すかさずルインがツッコミを入れる。
結局、話し合いは平行線をたどった。
「今更だけど、ボクたちって結構チームワークとかってないよね・・・」
と、レックがぼやいてしまうほど進展がなかったとき、いい加減に考えるのが飽きたのか、ルインが両手を挙げた。
「あーもうやめやめ。完全に煮詰まっちゃってるし。やっぱ数の暴力でゴリ押しにゴリ押しを重ねるのが一番でしょ。」
最終的には結局そこに落ち着くのか、と苦笑いしながらもそれに落ち着こうとしたとき、さっきからずっと黙っていたカウルが切り出した。
「なあ、こういうのはどうだ?
(〜作戦説明中〜)
といった感じだが?」
カウルの作戦を聞いた面々は、大体はいいんじゃないかという感じの反応が返ってきた。だが、危険な部分も含まれているため、満場一致の賛成ではなかった。特に
「その作戦は、理にはかなっていますが、なかなかリスキーではないでしょうか?」
ツェリライが一番難色を示した。だが
「いいじゃん、これ以上の上策が浮かばない以上、考えてところで時間つぶしになるだけだろうし。それじゃ、決行は一週間後にしようか。腕はある程度動かせるようになっておきたいし。」
と、結局ルインが半ば強引に決定づけた。
「一週間後って言っても、そのデリーターっていうのがいつ来るかはわからないんでしょう?大丈夫なの?」
とアコが心配するが、ルインは至って問題ないという考えのようだ。
「まあ、一週間後に来るという保証はどこにもないけど、少なくとも明日は来ないよ。」
「どうして?」
「今から治安部隊に連絡入れて、僕が襲われたっていうことを広めるからさ。外見を適当に丁稚挙げたうえでね。」
「外見の丁稚挙げ?なんでまたそんな手の込んだことをするのさ?」
「そりゃ、外見を聞いたら治安部隊だって本腰入れて動くだろうからね。万が一、僕らが倒すより先に捕まえられでもしたら嫌じゃん?」
「ルイン・・・。」
この言葉に呆れたのは、レックだけでなかったことは言うまでもない。
ルインの思惑通り、騒ぎは大きく広まった。
最初、ヒネギム係長に一連の話をしたときは、寝言は寝てから、エイプリルフールなら4月1日にしろと、まともな対応どころか叱られる羽目になったが、ルイン宅とルイン腕の怪我を調べた部下の報告を聞いたら一転、対策本部を立ち上げるよう働きかけてくれたようだ。
最も、ルインが外見についてかなり適当、というか実際の人物像と正反対のことを伝えたため、捕まえる事が出来ないのは明白なのだが・・・。
作品名:白き削除屋(デリーター) 作家名:平内 丈