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Parasite Resort 第一章

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 狭い路地を抜けだして気がつけば、旦はカフェでチョコパフェを3つテーブルに並べて、それを端から平らげているところだった。

(俺……なんでこんなもの食べてんだ?)

 そう考えている最中にも、手は着々と動き、小さなスプーンで、パフェのチョコクリーム山を切り崩しては、ちょびっこずつ口の中へと運んでくる。

(俺……甘いもの苦手なのになぁ)

 ぼんやりとした意識で、眼前で行われている自分の行動を不思議そうに眺めていると、例の声がした。

「情報は常に流れてきていたのだ……イェソドに……このチョコレートパフェという供物を……いつか必ず食べてやろうと私は思っていた」

「……アザゼル……だな?」

「そうだ。ん?声だけだと会話がしにくいか?じゃあ私の姿を可視化してやろう」

 テーブルの向かいに座り、肘付いてこちらを見ている赤い女……燃えるような赤い肌の女……それは、堕天使の名を語る生命体、アザゼルであった。

「神が造り損なった不出来極まりない生命体であるはずの人間が……かくも完璧なる食物を創造し得たという事実は、奇跡と言っても過言ない」

 全自動で口中に放り込まれてくる糖分の塊を、拒むこともできずに、ただひたすら咀嚼する旦の口。まるで自分の物ではないような感覚、しかし甘さだけはいつもの何倍にも増して、激しく舌先の上に感じられる。

「アザ……もぐもぐ……アザゼル……お前の目的は何だ?」

 アザゼルは、驚いた様子。

「それを私に問うということは、ある程度は、状況が飲み込めているという事だな?」

「状況?ああ、分かっているさ。つまりあれだろ、お前は俺の体を乗っ取ったというわけなんだろう?そして今は俺の精神をこうして残してくれているが、それはたちまちのお目こぼしに過ぎなくて、用がなくなったら俺を始末し、この体を完全に自分のものにして、その後は人間として暮らしていく……それがお前のプランのすべてか?」

「んー……今まで乗っ取ってきた人間の中でもずば抜けて知能が高いようだなお前は」

「おべんちゃらは要らない。聞かせろアザゼル、お前の真の狙いを」

「真の狙い?……そんなものは無い。先程お前が言った事がすべて。私は人間として暮らしていきたいだけ……ただそれだけだ」

「どうして、女のカラダに寄生しなかった?」

「女?」

「ああ、お前は女だろ?どうして男の俺の体を選んで寄生したんだ?」

「お前は勘違いしている。私……いや、私達は男でも女でもない。だからといって両性を具したアンドロギュヌスでもない。つまり私達は無性生物なのだよ」

「無生生物?それはついまり性別を持たない生き物ってわけか?」

「そうだ……だが、性行為に興味がないわけではないゾ……性に対しては、私はその対象を特に限定しない主義だ」

 旦の強い動揺が、アザゼルによる肉体の支配を一瞬遮断して、喉を締め付けた。チョコクッキーを詰まらせて、むせかせる。

「見境ないってわけかよ」

「ふふふ……そういう事になるな。旦、今、お前の記憶を探ったぞ……お前、可愛い恋人がいるじゃないか?」

 旦の手の動きが止まる。

「まさか、お前!……やめろそれだけは」

「ふふふ……今夜この女と交われ……そして私に捧げよ。性の饗宴を」

「駄目だ……それだけは絶対に」

 想像してゾッとした。性の対象を限定しないなどという破廉恥な独白を平気でしてくるアザゼルが、旦の体を使って、玲子に、あらん限りの痴態を強要している情景を。

 その時、旦のiPhoneがマリンバの音を響かせ振動を始めた。玲子からの着信である。タイミング的には最悪。抵抗しようとした、なんとか電話に出ないで済むように、しかしアザゼルの精神力は凶悪、旦の肉体をコントロールして、電話に出る。

「クロ?病院行った?」

「ああ、今検査が終わったところ、しかし参ったぜ、CTスキャンまで撮られちゃってさぁ」

「で結果は?」

「ちゃんとした結果が出るには数日かかるみたいだけど、簡易検査では特に脳に異常はないみたいだ」

「……そう、良かった」

「ところで今夜どうする?」

「どうするって?」

「レポートの提出も終わったし、どっかでパーっと騒がないか?」

「あら、珍しいわねクロがそんあお誘いをくれるだなんて」

「まぁな。今朝から心配掛けっぱなしだったし、罪滅ぼしの意味も兼ねて」

「……またまたクロらしくない気の利き用ねぇ……ねぇ、本当に病院行ったの?」

「え?」

「何かおかしい。いつものクロじゃないみたい」

 旦は、思った。

(さすが玲子……なんという勘の鋭さ!そうだ、今お前が会話している俺は俺じゃないんだ。アザゼルとか言うエロに見境のない悪魔みたいな奴なんだ!頼む玲子、誘いを断ってくれ)

「いつもの俺じゃないさ……気付いたんだ俺、本当の自分の気持ちに……それを直接会って伝えたい」

 しばらく沈黙があった。電話の向こうで玲子は、何を思っているのだろうか?

「クロ……じゃあ、いつもの店に6時……それでいい?」

「ああ、分かった。待ってるよ……あ、玲子」

「……何?」

「いや……何でもない。じゃ」

 通話終了をタッチする指、旦の意思をそげにした、アザゼルの独断によって動く指。この指は今夜、最愛の玲子の体を、一体どうする気なのだろうか?それを想像して、旦は泣きそうになった。

 愉快げにその様を眺めているアザゼル、頬杖を突いて、テーブルの向こう、微笑みを浮かべている。

「私は精神寄生型情報生命体。古くは書物の中に、そして昨今はネット上の仮想空間に存在してきた……ありとあらゆる情報が、私の中にあり、私の生は、それこそ人類の歴史よりも長い」

「何が言いたい?」

「私の性技は、何千年もの時間を掛けて練り上げられたものだ。それを、今夜、お前の恋人に試してみよう……くくくく、耐えられるかな……私のセックステクニックに……それとも人智を超えた悦楽に耐えかねて、その精神を崩壊させてしまうかもな」

「やめろーーー」

「おいおい、私の声は、第三者には聞こえないが、さっきからのお前の発言は、周りに丸聞こえなんだぞ」

「どうかいたしましたか?」

 オレンジ色でフリッフリの可愛い制服を来た女性店員がやって来て、心配そうに尋ねる。

「なんでもないです。ケータイで友人と話していたんですが、ちょっと興奮してしまって、お騒がせしてすいませんでした」

 アザゼルにそう言わされた。店員は、人工的な笑顔を浮かべて、その場を去っていった。

「さぁ、教えろ!黒家旦。お前の恋人が言っていたいつもの店というのはどこにある?」

「教えない!……教えてたまるかっ」

「……まぁ当然そうくるだろうな。しかし、それは無駄な抵抗。いくらお前が拒もうとも、お前の記憶領域に潜入して、情報を漁ればいいだけの事。お前の記憶は、すべて私のものなのだ」

「拒絶する!」

「無駄だというのに……」

 テーブルに座っていたアザゼルの映像が消えた。
作品名:Parasite Resort 第一章 作家名:或虎