Magic a Load 2
「全く、君は色々な事を知っているかのようにみんなの心を暗闇の方へと引き込むね。今からだ・・というのに。これ以上はいくら君でも許せないよ。君は私の傍で少し黙っていた方が良さそうだな。これからは現実へと戻ってもらうのだから。ああ、フランシス、君はどうするかな?これ以上みんなの気持ちを闇へと連れて行くようならば君だけは現実へと戻せないようにするか・・。」
フランシスは慌てて声を上げた。
「そんな!!・・と・・・まぁ、僕は現実に戻ったとしても・・・・」
フランシスは言葉を途中で詰まらせそっぽを向いた。クロウリー師の瞳が恐ろしかったからだ。
半気絶していたディビットはこの二人のやり取りを床に倒れこみながらも見て未だ信用していない・・というより何かを疑っている表情で二人のやり取りを見ていた。
シンは肩を竦めクロウリー師に聞いた。
「えっと?俺らは今から現実の世界へと戻れるのは本当なんですか?」
クロウリー師は顎をさすり"うむ"とかすかに声を出し暫くしてから口を開いた。
「ああ、そのつもりだがまずは君らに"魔法"を覚えさせないといけない。しかしこれはごく簡単な事であり、とても慎重に扱わないといけない物だ。分かるかな?いやはや、シンくんなら分かってくれるだろう。私はこの中でもっとも君の事を信じている。」
シンが返事を返そうとした時、ディビットが起き上がりシンの腕を強く掴み言った。
「おい・・・お前・・・正気かよ・・。こんな胡散臭い野郎に"魔法"まで教えてもらうつもりか?」
「あれ?お前気絶してたんじゃ・・」
ディビットは今度はシンの胸ぐらを掴み自分の顔の方へと寄せシンだけに聞こえるように言う。
「・・フランシス如きで俺がずっと倒れてるかっての・・。それよりお前、マジなのかって・・俺は聞いてるんだ。」
シンは暫く唸り声を上げ頭を掻くとようやく頭の中で整理できたのかにっこりと微笑んで言った。
「ああ、だってさ。これから現実の世界へ戻れるんだぜ?嬉しい事じゃない?これには意味があるってもんだよ。な?相棒よ。」
シンはディビットの肩を抱き寄せポンポンと背中を叩く。シンはこの時、ウィンクで合図を送ったがディビットはとりあえずシンに同意したように軽く頷いた。
シンが何故ウィンクを送ったかは正直ディビットは理解してなかった。がしかしコイツがだいたいウィンクをする時は頭の中で何かを計画している時だとディビットは幼き頃からその事だけは覚えていた。
ディビットははぁと溜息をつくとクロウリー師に言った。
「俺の負けだよ。"おっさん" とりあえずその"魔法"とやらを俺らに早く教えてくれ」
クロウリー師は咳払いを一つしその後、嬉しげに微笑みまずはシンとディビットを自分の方へ来いと指で合図をした。
クロウリー師は次に指で床を指した。シンは思わず口笛を拭き勿体ぶるような口調で言った。
「今、この場所にアンディが居たら嬉しすぎて鼻血出して倒れ込むかも。それかこの床に顔をスリスリと擦りつけてそうな・・・」
「ああ・・それは俺も嫌でも想像つくわ・・・鼻血もいき過ぎ・・でもねぇか。アイツならありえる。」
クロウリー師は二人が何を言っているのかを理解できず胸ポケットから透き通った綺麗な瓶を取り出しながら問いかける。
「君らは何の話しをしているんだ?」
シンとディビットはクロウリー師を一度見てそれから互いに顔を見合わせるとシンは既にその床に胡座をかき座り込んで少し呆れかけ返事をする。
「・・いえね・・・今頃・・何処に居るのか分からないスクールの友達が"大の魔法"好きで。この俺らの中で多分、ニックとナンシーよりも魔法、魔術関係に詳しくって。本物の召喚を見たらマジに大喜びするんじゃないかなぁ、、って話しですよ。今は一緒に居るかは分からないけどジェイコブって男はディビットと同じで現実的な人なんですよ。」
クロウリー師は魔法の瓶の淵を下にし何度か振り自分が今、手にはめている白い手袋の上にハラハラと何かを落としながらシンに言った。
「そうか。それは残念だな・・・。でも、今している事は多分、その二人の為にもなるかもしれない。その二人が"大事な友達"なら尚更な。」
シンはにっと笑顔を見せた。クロウリー師は手に落とした何かを今度はシンの両方の肩に交互に手を擦り落とす。
ディビットは右の眉毛を吊り上げクロウリー師がシンの肩に振り落とした粉のような物をジッと見つめた。
「・・・それは・・オトギ話で良く出てくるもん(物)だろ?それくらい俺だって知ってるんだぜ・・」
ディビットの発言にシンは笑いを拭いた。その笑いは唾と同時だったもので目の前にいたクロウリー師の顔に唾が綺麗にかかってしまった。
シンは慌ててクロウリー師の顔を自分の服で拭いディビットに向かって言った。
「おいおい。デイジーちゃん、今ここでそれを言っちゃうのかよ・・。俺、今すげー笑い転げたい気分なんですけど・・!でも・・」
「ああ。それはダメだ。今はまだ"魔法の粉"をかけただけだ。これからシンくんが先に"魔法の呪文"をしっかりと暗記するまで覚えてもらいたい。その間に次は君の番だからなディビットくん。そのオトギ話で出てくる粉をかけてあげるんだ。さぁ、そこにすぐシンくんと同じように胡座をかき座りなさい。」
クロウリー師は今までの仕返しのような言い方をしシンの隣に座れと指で合図する。
ディビットは少し頬を赤く染め胡座をかき勢いよく座った。シンがチラリと横目でディビットを冷やかしている。ディビットは頬を赤く染めきっとシンを睨みつけた。
クロウリー師は自分の方へと視線を向けさせる為に両手をパンと大きな音を立て叩いた。
クロウリー師は声のトーンを落としシンの目の前に腰を落としそっと問いかけるようにシンに言った。
「いいか、シンくん・・君が今から覚える呪文は"スティムラマトン"だ。その呪文を両方の目を瞑って何度も何度も唱えるんだ。覚えた時は体がしっかりと教えてくれるからな。さぁ、始めてくれ。・・・。ふむ。君には少しリラックスも覚えさせないとダメかもしれないな。」
シンはまた拭きそうになったがクロウリー師に"続けるんだ"と言われ胡座をかきなおしてからシンはまた目を瞑り"スティムラマトン"と何度も唱えるように呟きはじめた。
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ジェイコブを肩に背負ったアンディはその場で暫く硬直していた。自分の身体が重く感じるという事もあったが今、自分の真後ろに居る物体の怒りをもの凄く感じていたからだ。
巨大なゴブリンと言うだけであってアンディは硬直したままその巨大なゴブリンの白い息を嫌でも背中で感じていた。
肩に背負っているジェイコブを見るとアンディは苛立ちではなく呆れた溜息が思わず零す。ジェイコブは小さい子供が幼稚園での昼寝をしている時の表情をし気持ちよさそうにすやすやと寝ている。彼の事だ、どうせ夢の中で自分は野球選手にでもなった夢でも見ているのだろう。ジェイコブの体つきが良いのはそのせいでもある。
ジェイコブは幼い頃は野球選手になる夢を持っていたが今ではどうしようもない不良になっていた。
家庭が複雑で親から虐待を受けているという話しをアンディはシン経由から聞いた事があった。今でもその傷がどこかしらに残っているのだろう。
作品名:Magic a Load 2 作家名:悠華