人でなし?
「では、こちらへお連れしますので、このラウンジでお待ちください」
それから数日後、アンドルーズは、入院しているバーナードのお見舞いのために、街の病院に来た。バーバードは、その病院の中にある隔離病棟に入院させられていた。
リザードマン化するウィルスに感染した患者は、今いるような隔離病棟に入院させられている。ただしここは、感染したばかりの患者のための病棟のため、NBC防護服を着用しなければならないレベルではなかった。ただし、万が一に備え、ピストルを所持した警備員が、数人常駐していた。
アンドルーズは、バーナードが連れてこられるのを待つために、受付近くのラウンジで待つことにした。隣りの席に座っている少年は、本を読んでいた。
ラウンジには、彼と同じように見舞いに来た客と患者がおり、見舞い客と患者や患者同士が静かに会話していた。治療法はまだ研究中で完成していなかったが、ひたすら発展してきた技術の進歩に期待している様子で、張り詰めた空気はあまり無かった。
「おじさん、兵隊さんでしょ?」
隣りに座っていた少年が本を置き、彼に声をかけた。
「ああ、そうだけど?」
彼は不思議そうな表情で少年を見る。本を持っているその少年は患者だったが、周囲に見舞い客の姿は無かった。
「ボクと同じ病室の人のお見舞いに来たんでしょ? おじさんのことをペラペラと喋ってたよ」
「……バーナードという名前の男だろ?」
「うん」
「やれやれ、アイツは口が軽いからな……。ところで、君のお見舞いに来た人は?」
アンドルーズが辺りを見渡してから尋ねた。
「……パパとママもみんな死んだよ。トカゲになる病気で」
少年の言葉を聞いたアンドルーズは、心の中で「しまった」と呟いた。彼が気まずそうにしていること気づいた少年は、彼に気を使い、笑顔を見せてくれた。
「でも、ボクはまだ感染していないと思うんだ。ちょうど友達とキャンプに行っている間に起きた出来事だから」
アンドルーズは驚いた。感染しているかどうかの検査をちゃんとしていないということだからだ。
「え? じゃあ、なぜ入院しているんだい?」
「……トカゲになる病気のことをよく知ってる?」
少年は、馬鹿にしている口調でアンドルーズに言った……。
「知っているとも、暴力的で野蛮なトカゲになってしまう病気だろ?」
アンドルーズは、自信たっぷりに答える。
「初期症状は?」
「……いや」
「じゃあ、教えてあげるよ。初期症状は、肉をよく食べることと暴力的な行動や考えをするようになるんだ」
説明口調の少年は、まるで学校の先生のようだった。
「あそこの家族みたいにか?」
少し離れたところにあるテーブルで、全員デブの3人家族が、ハンバーグやステーキをバクバク食べていた。どんな胃袋を持っているのかと不思議に思えてくる。
「あの人たちは、ボクんちの近所に住んでいるんだけど、いつもお肉をたくさん食べているよ。たぶん、あの人たちも感染していないと思う」
「どうして?」
「過剰反応だよ」
少年が見せてくれた本をよく見てみると、暴力的だとあちこちから批判されている小説だった……。おそらく、少年を感染者だと判断した連中は、「暴力的な本を読んでいるから、感染者に違いない」と勝手に判断したのだろう……。病気に対する情報不足と過剰反応から、過激な隔離措置が起きていることは間違いなかった……。おそらく、感染していないのに入院させられている人は、他にもたくさんいるに違いない……。
「……なんてことだ」
アンドルーズは、そのことを情けなく思い、両手で顔を覆った。