Minimum Bout Act.03
どんどんとこちらへ近づいて来るのは、先ほどからカッツとシンが怯えて止まない女性、セイラだ。
小柄で緩いウェービーヘアーをポニーテールにし、高いヒールに大きな胸が少し窮屈そうなシャツを身に纏った美人である。
「信じられない。あたしが3歳、カッツが7歳の時に約束したでしょ? あたしが将来あなたのお嫁さんになってあげるって」
それは約束じゃなく一方的な愛情の押し売りだ。
と思ったが、後が怖いのでシンは黙って自分の背後に隠れようと無駄な努力をするカッツをセイラの前に引きづり出す。
「誰が嫁になってくれと頼んだんだ!?」
「しばらく来ないうちに随分中が綺麗になってるわねえ。掃除してるのね、偉いわ」
カッツのつっこみを見事に無視し、室内を見回しながらセイラが言うと、しっかりとシンの上着を掴んで逃げられないようにしながらカッツが答える。
「ルーズのやつが掃除してくれるからな」
「ルーズ……って、誰?」
セイラの顔が一瞬険しくなる。
が、カッツはそれに気付かず頭を掻きながら答えた。
「あ? ああそうか、お前3年近くここに来てなかったな、そう言えば。ルーズはその頃から仲間になったやつだよ」
セイラはエンド政府の調査団の1人で、エンドを基点とした様々な惑星地質調査をしている。人間が住めるような星を探し、大気生成システムが使用可能な土地かどうかを調べるのだ。そのためエンドに戻って来るのは年に1度あるかないかだ。
カッツとセイラの生まれ故郷はエンド北部の寒冷地帯にあり、エンド政府があまり熱心に開拓を行なっていない“アイン”という国だ。アインはあまり豊かではなく、エンド大気生成システムも十分に機能していない為かなり厳しい環境の土地だった。
地球のように雪が降ることはないが、アインでは子どもが大人まで成長する確率が低い。それだけ過酷な環境と言える。植物も育ちにくく、主な国の収入源といえば、子どもを軍事学校で高度な戦闘員に育ててエンド政府軍へ送り、その報酬を受けるというものだ。
カッツは幼い頃から軍事学校で戦闘員としての訓練を受けながら生活をしてきた。
作品名:Minimum Bout Act.03 作家名:迫タイラ