Minimum Bout Act.03
No.8「惚れられて」
カッツは朝から頭を抱えていた。
うんうん唸り、心無しか顔色も悪いようだ。
「はあ……おい、どうした。朝からずっと唸って。便秘か?」
あまりにも構って欲しいオーラを出し続けるカッツに、シンが呆れたように新聞から顔を上げて尋ねた。
「シン……やばいぞ」
「は? 何が?」
「あいつが来るーーー」
「あいつ?」
「ーーーセイラが来る……」
カッツの口から聞こえたその名前に、シンはビクリと肩をすくめ、そそくさと立ち上がった。
「さて、と……ルーズのやつはどこに行った? 昨日チェスで負けたからな。今日は勝って昨日の負け分を取り返さないと」
「おいっ! てめえこら! 逃げるんじゃねえ! ルーズは朝早くから出かけていねーんだよ!」
「くっつくんじゃない! 放せっ! オレはあの女苦手なんだよっ!」
シンの腰にタックルをし、逃げようとするのを必死で抑えながらカッツが泣きそうな顔で頼み込む。
「俺だって苦手なんだ! 俺1人であいつの相手なんて出来るかっ! てか襲われる! 頼む。後生だ! どこにも行かないでくれ~!」
「煩い、知るかっ! 大体セイラはお前の許嫁だろうが!?」
カッツを必死で引き剥がしながら、シンは全力で足を前へと動かす。が、カッツの力にはとてもじゃないが敵わない。
「アホかーー!! 許嫁じゃねえ! ただの幼なじみだ! それにあいつも俺ももういい年ぶっこいてるんだぞ!? 今更結婚なんて出来るかあっ! つーかそんな約束なんてした覚え俺はねえ! つーか死んでも無理!!! あ、そうだ。お前男前なくせに彼女いないよな? セイラはどうだ? あいつ乳でかいし、お勧めだぞ~」
「ふざけるな! 自分が無理だとか言ってるやつを人に回すな! じゃない、あいつはお前以外の男になんか興味持たないだろ!? つーかオレこそ無理だ!」
「カッツ、シン。大きな声でみっともないわよ」
「ひっ!?」
「う!?」
コツンと一つ、階段の方でヒールの音がしたかと思うと、直ぐさま女性が姿を現した。
その姿にカッツとシンは動きを止める。
「久しぶりに会いに来たっていうのに、フィアンセに対して何、その言い草は。それにあたしとの結婚の約束を覚えてないですって?」
「ばっ、覚えてないじゃねえ、約束自体した覚えがねえって言ってんだ!」
作品名:Minimum Bout Act.03 作家名:迫タイラ