Minimum Bout Act.03
「で? その命の恩人の少女に惚れたという訳か?」
隣りで昔を思い出しながら語るカッツを横目に見ながら、シンが尋ねる。
「まーな。一週間の間に俺の怪我はかなり回復した。女は食いもんから飲み物から排泄物の世話まで、そらあもう、まるで看護士みたいに世話してくれたよ。思春期の男にはつれーよなあ。女に糞尿の処理してもらうなんてよ……まあ、おかげで何が起きても平気になったけどな」
そう言ってふざけた顔で笑う。
生い立ちはカッツもシンも似たようなものだ。どちらが不幸かなど比べようがないが、カッツはそんな中でも生きる事に必死だった。
よって、セイラという幼なじみの女性がいても、本人がセイラを女性として認識しないまま軍事学校に入校した為、女性に対する免疫も少なかったと見える。
瀕死だった自分を救ってくれた命の恩人の、同年代の少女に恋をしたというのなら、それはいわゆる“吊り橋現象”かもしれない。
しかしたった6日で怪我がかなり回復したというのは恐ろしい話しだ。
全身骨折と打撲なら、最新の医療施設でも完治するまで数週間はかかる。
高所から落ちて死ななかったのだから、この頑丈な体は何物にも勝る賜物だと言えるだろう。
カッツの生命力の強さに感心すると同時に、命の恩人に惚れたという単純さにシンは呆れた。
「それで、結局女の仕事というのは何だったんだ?」
「さあな。残念ながら教えてもらえなかった。でも、名前だけは教えてもらったぜ」
「……おい、ちょっと待て。まさか……たったそれだけの情報でその女を探そうとしているのか?」
「悪いかよ」
「悪いというか、無謀だろう。他に特徴とかないのか?」
「ーーーすげー可愛かった……」
カッツのその言葉に、シンは思い切り項垂れた。
「はあ……もういい。お前の初恋物語を聞いてると、こっちの脳みそがどうにかなりそうだ。で? その女の名前は? ……っ!?」
突然。
あまりにも突然にシンは突き飛ばされた。
何が起こったのか理解する一瞬の間に銃声が数発聞こえ、真横にいるであろうカッツの小さなうめき声が直ぐさま聞こえた。
「くっ」
「敵か!?」
突き飛ばされた反動でくるりと一回転し、シンは近くに置いてあった鉄板を拾いカッツの前へとしゃがみ込む。
「カッツ、大丈夫か!?」
「大丈夫だ。肩に当たっただけだ」
作品名:Minimum Bout Act.03 作家名:迫タイラ