Minimum Bout Act.03
しかし、それ以上意識を保つ事が出来なくなったカッツは、薄れゆく己の景色の中で、何とも不思議な感覚を受けたのだった。
次に目を覚ました時、カッツは薄暗い場所に寝かされていた。
体は指一本動かせなくて、目だけで様子を探る。
ここは、どこだ……?
「くっ……」
ほんの少し首を動かしただけで激痛が走る。
ぐるりと視線を一周させると、どうやら洞窟の中のようだった。ゆらゆらと揺れるろうそくの炎が反射して、岩肌を赤茶色に映している。
「まだ動くのは無理よ」
少女の声がして、カッツはその声の主を探した。
「水、飲む?」
カッツの足もとから現れた少女はニコリと微笑み、首から下げた水筒を見せてカッツの隣りに座る。
誰だ?
アインは子供が成長するのも厳しい環境の為、女児の生存確率は男児よりもはるかに少ない。そのため学校の生徒はほとんどが男子で、女子は全体でも10人といなかった。この訓練に参加しているのも全員男だった為、カッツは少女の正体が分からなかった。
おまけにこの辺りに人が住んでいるという話しは聞いた事がない。本当に岩だらけの場所なのだから住めるはずもないのだが、そんな場所で軍事学校の生徒でもない少女が一体何をしているというのか。
「お前は……誰だ?」
かすれる声で尋ねると、少女は一瞬困ったように首を傾げ、カッツの頭を少し持ち上げ水を飲ませてくれた。
どれほど水を口にしていなかったのか分からないカッツは、少女が与えてくれたその水のあまりの美味さに驚いた。
目をつぶり水の味と感覚を思う存分に味わうと、ゆっくりとカッツは息を吐いた。
「あんな高い所から落ちて助かるなんて、本当に奇跡ね。もう一人は残念だけど……でもあなたも全身骨折と打撲だらけだから、当分動くのは無理よ。出来ればすぐにでもあなたの仲間の所へ連れて行ってあげたいのだけど、今、私がここにいる事を誰かに知られたらまずいの」
一体何を言っているのか、少女は言葉を切ると再び立ち上がった。
「あと6日で私の仕事は終わるわ。その後であなたがここにいることを仲間に知らせてあげるから、もう少し我慢して頂戴。それまであなたの怪我は私が看るから」
そう言い残し、少女はカッツの前から去って行った。
「おい……」
作品名:Minimum Bout Act.03 作家名:迫タイラ