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何度でも、あなたに恋をする~後宮悲歌【ラメント】~ Ⅳ

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「明姫、私の眼を見て。もう一度だけ訊く。本当に私を嫌いになってしまったのか?」
 明姫はおずおずと眼を開いた。烈しさを宿したユンの瞳の底に蒼白い焔が燃えている。
 そのまなざしの烈しさに。真剣さに。
 また今日、新たに恋しそうになる。
 こんな真摯な瞳で語りかけてくる男に嘘は言えない。彼にここまで情熱的に求められることが嬉しくないはずがないのだ。
 何故なら、明姫もまた彼を心から愛し求めてやまないから。
 明姫は負けた。彼の一途に自分を求めてくれるその愛の烈しさに。
「私もあなたを愛しているわ、ユン」
 遅すぎた告白に、返事はなかった。ユンは返事の代わりに明姫の薄紅色の唇を塞ぎ、烈しく貪るような接吻(キス)をした。
 ユンは明姫を抱え直すと、庭を大股で横切り廊下へ上がり、そのまま明姫の部屋に彼女を運んでいった。

 あのひとの指が私を溶かしてゆく。
 お願い、もっと私に触れて。
 私の身体のすべてに触れて、甘く溶かして欲しいの。
 今日、私は生まれ変わるから。
 あなたによって生まれ変わって、新しい私になるの。
 もう迷わない。私はあなたのもの。
 あなたは私自身。
 お願いだから、もっと私に触って。
 髪も乳房も、私の身体がまるごと、あなたに触れられるのを待ちわび、歓んでいる。
 もう離れない。
 たとえ、あなたの心が私から離れるときがくるとしても、私の心はいつもあなたの傍にいる。
 もっと、もっと触れて触って。
 隙間がないくらい、私を満たして、私の中のあなたを感じさせて。
 私は今日、あなたの手によって、新たに目覚め生まれ変わったのだから。

 ユンの逞しい身体がのしかかり、秘めた場所をおしひろげてゆく。初めて男を受け容れる破瓜の痛みよりも、大好きな男とこうして繋がっていられることが嬉しい。
 ユンが明姫の両脚を抱え上げ自分の両肩に乗せた。彼女の華奢な肢体を二つに折り曲げるようにしてグッと強く引き寄せた刹那、烈しい疼痛がユンと繋がった場所から生まれていく。
 でも、次第に感じるのは痛みだけではなく、その中にほんの少しの気持ち良さが混じり始めた頃、ユンの動きがまた烈しくなり、明姫は彼自身で最奥まで一挙に刺し貫かれた。
「あぁっ―」
 悲鳴とも嬌声とも定かではない自分の声は、我ながら恥ずかしくなるほど艶めいている。
 その烈しすぎる声を自分以外の者には聞かせまいとするかのように、ユンが明姫の可憐な唇を己が唇で塞いだ。

 一刻後、明姫はユンの腕に肩を抱かれ、褥に寄り添って横たわっていた。
「迎えにくるのが随分と遅くなってしまったが、改めて言うよ。私の妻になって欲しい、明姫」
 本当はもっと早くに迎えにきたいという衝動と欲求を抑えるのに、ユンがどれほど葛藤したか。明姫は知らない。
 彼はこの一年という時間をかけて、頑なに明姫を側室とは認めぬと主張する大妃と向き合い、ついに母を説得したのだ。そのために、大妃は条件として、いまだに初夜すら迎えていないユン昭儀、及び兵曺判書の娘である曺昭容(ソヨン)の二人の側室の許に王が通うことを要求した。
 ユンは最初は抵抗したものの、直に、この要求を呑まなければ、明姫を手に入れる機会を永遠に失うことになると悟った。
 皮肉なものだと思った。生涯でただ一人の想い人だと思い定めた女を妻に迎えるために、愛してもおらぬ女たちを抱く。王は大妃の要求を受け容れて、ユン昭儀と曺昭容の二人の側室たちを次々と寝所に召した。
 ただし、彼女たちは気の毒に待望の王との初夜を迎えたものの、ただ一度きりで、その後は王に呼ばれることもなく過ごしている。
 だが、そのたった一度のお召しで曺昭容は見事に懐妊し、今、妊娠八ヶ月目に入っている。曺昭容はペク氏の娘ではないが。彼女の父兵曺判書は明らかに領議政派の官吏だ。大妃は曺昭容の懐妊に狂喜乱舞し、ここのところ、いつになく機嫌の良い日が続いている。
 いずれ後宮入りすれば、これらの諸事情はいやでも明姫の耳に入ることになるだろう。彼女のいない間に新しい側室たちと夜を過ごし、しかも一人は彼の初めての子を身籠もった。
 明姫がこの事実を知れば、必ず衝撃を受けるに違いない。もしかしたら、今度こそ、彼女は自分を嫌いになってしまうかもしれない。
 しかし、漸く晴れて明姫と結ばれた今この時、敢えて、そのような話を新妻に聞かせる必要はないとユンは考えていた。彼女にできれば聞かせたくない事実を隠して求婚し、抱いたことが卑怯な方法であることも判っている。
 ユンは腕に抱いた明姫の髪のひと房を掬い、そっと口づける。
「いつかそなたは言ったな。大勢の女たちと後宮で私の愛を分け合うのは嫌だと。だが、愛しい明姫、私は王だから、そなたのその望みは叶えてやれそうにない。たぶん、私はこれから先も新しい側室を迎えることになるだろう。だが、たとえ何人の女が後宮に来ようと、心の妻はそなただけだ。私の心を満たし、乾きを癒してくれるのは明姫だけなのだ。そのことを忘れないでくれ」
「判っています。それが王として生きるあなたの宿命であれば、私はその宿命に従うつもりでいるから、心配しないでください」
 愛しているなら、彼の傍にいたいのなら、彼の運命ごと受け容れねばならない。そして、彼の傍で生きてゆくのが私の運命だと思わねばならない。
 明姫はかすかに微笑んだ。ユンがまた彼女の長い髪を掬い、唇に押し当てる。あたかも髪の毛にまで研ぎ澄まされた神経が通っているかのようだ。そうやって口づけられる度に、ぞくぞくするような快感が身体中を駆け抜けてゆく。
 ユンはしばらく彼女の髪の毛を弄っていたかと思うと、急に手を放し真顔になった。
「それから、そなたに一つ言っておかねばならないことがある」
「―何ですの?」
 ユンの表情は髪を弄んでいたときと異なり、厳しささえ滲ませている。明姫の心にふと一抹の翳りが落ちた。
「そなたの身元のことだ」
「私の身元ですか?」
「それについて、私は明姫に詫びねばならない」
「何故、殿下が私に?」
 純粋に不思議だと思った。自分の身元とユンとどういう関係があって、彼が謝るようなことがあるのだろう。
 ユンが眼を細め、また明姫の髪を撫で始めた。何故かユンはしばしば、明姫をこんな眼で見つめる。以前から気づいてはいたけれど、まるで眩しい太陽でも見るときのように眼を細めるのだ。
 しかし、今のユンは明姫の想いとはまったく異なることを口にした。
「そなたの素性を私は知っている」
「―」
 刹那、明姫の思考は現実に引き戻された。
「ご存じだったのですか?」
 ああ、と、ユンが頷いた。
 その間もユンの手は動きを止めない。髪のから次第にゆっくりと下降し、咽、鎖骨を指でつうっとなぞり、ついには豊かな胸の突起に辿り着いた。
「明姫の胸の蕾は美しいな。桜草の色と同じだ」
 ユンの悪戯は度を超してゆき、乳房の突起を捏ねたり揉んだりする。
「殿下、話ができなくなります。今はお止めください」
 乳房から感じる快感に思わず声を洩らしそうになり、明姫はユンの手をそっと押しやった。
 大切な話の途中で、身体を弄られたら、頭がうまく考えを纏めれられなくなってしまう。
「いつからご存じだったのですか?」