ダンジョンインフラ! 序章〜第一章
それから三十分程、他愛無い話をしてアヤさんと別れた。
その後も特にやる事がなく、一時間かに時間か、それくらいポケーっとしていた。
日も暮れて当たりが暗くなってきたので家に帰ろうとしたが、あんまり帰りたく無い。
倫姉ちゃんも相当怒っているだろう。
別に本気で言ったわけではない。
売り言葉に買い言葉だ。
それでも、『他人』だなんて。
本当に悪い事をしたなぁという思いが、俺の足取りを重くする。
もう少しだけ、謝るのはもう少しだけ先にしよう。
あ、そう言えば。
もう一つ忘れていた。
俺、銃持ってるじゃん。
ということで来たのは町外れの神社。
河原の次は神社というのは、同年代でも中々チョイスしないスポットかもしれない。
まあ、別に俺は信心深いというわけではない。
お参りに来たのかと言えば、ノーだ。
ならば何をしにきたか?
簡単に言えば、射撃だ。
境内からちょっと離れた、街灯の明かりが届く十数メートル四方の広場。
はじっこに立ち、徐に魔方陣を展開する。五重の円の中にうねるように出てくる術式は俺特性の魔数式関数だ。情報要素とともに、足下の座標を念じ、代入する。
間もなく演算が開始され、術式が青白い魔方陣の演習をぐるぐると回り出す。
次第に術式達が高速回転をはじめて、突如中央に収束する。演算の終了だ。
そして五重の魔方陣がぺちょりと地面に張り付く。
その瞬間。魔方陣の中央からニュっと出てくるのは厚さ五センチ程の土塊の板だった。
何回か繰り返して即席の的をこしらえる。
そして広場のはじっこに行き、ホルスターから自動拳銃<ガルバイトM2085>を抜いた。
反対側の腰に付けていたマガジンを取り出し、装填。
遊底を引き、弾丸を薬室の中に送り出す。
銃を両手でしっかりと固定し、照門と照星を合わせて狙いを定める。
呼吸を止め、肩の力を抜き、そしてトリガーを優しく引く。
轟音。
発射の勢いで遊底が凄まじい勢いでブローバックし、次弾を薬莢に送り込む。
45口径の衝撃が手、肩、そして全身に駆け巡る。
すぐに次弾を発射したい所だが、大口径銃を連射する程の腕力は持ち合わせていない。
一発一発、ゆっくりと発射して十数メートル先の土塊が破砕する音を楽しむ。
七発全てを撃ち終えると、スライドストップが働いてホールドオープンになる。
息をゆっくりと吐いて、俺は銃口を下げた。
最近始めた拳銃術。
我流ではあるが中々様になってきたかと思う。
しかし魔法が見つかる前の世界は、こんな超非効率なもので殺し合っていたなんて今でも信じられない。たかだか一センチ程度の弾丸を動き回る人間に当てるなんて先人達はどうにかしている。俺なんか的に当てるだけでも精一杯なのに。
ホーミングしない弾丸ってどういう事だよ。
普通の魔法銃なら一度ロックした相手に確実に当たる誘導機能がついているのに。
ただ当たりさえすれば確かに致命傷だろう。俺の<ヴァルタールM2085>45口径の弾丸の速度は亜音速。そんな速度の衝撃なら、打ち所が悪ければ命は無い。
ただ昨今において国民の99%が所持しているであろう魔法防護壁装置の前には全くの無力。カキン、と気持ちのいい音を立てて、鉛玉がその場にポトリと落ちるだろう。
ただ、こういった非効率でクラシックな武器はそれなりに味がある。
なんと表現すれば良いのか。魔法に頼らない人間の技術の結晶と言えば良いのだろうか。
確かに人殺しの武器であるが、刀と同じくこの帝国で『道』を謳う機械武術に昇華されているあたり、万人がその魅力を認めているのだろう。
何よりスカッとするのがいい。音が大きいのが難点だが、こうやって町外れで爆音と鉛玉が飛んで行っても迷惑にならない所なら何発でも気軽に楽しめるのだ。
本当は学校に道場があり、部活もあるのだが……俺はそういう集まりはとんと苦手なのだ。
一人で楽しめるのは一人でいいじゃないか。
部活とか行くと熱意の差で摩擦も起こるし衝突も起こる。嫉妬だってでてくるだろうし、俺だって嫉妬するかもしれない。そういうのが嫌なのだ。
そういうの抜きに何かを切磋琢磨できるのならば、それはそれでいいかもしれない。
例えばそれはアヤさんのような人だったり。
そうでなくても、ちゃんと成果を褒めてくれる人がいたら——
って、何女々しい事言ってるんだ俺は。
世の中はそんなに甘くは無いのだ。
一人で生きて行けるように今から精神を磨いておかねば。
と考えている間にも土塊を呼び出して、銃撃をするの繰り返しをしていた俺。
あともう一回だけ的を作って終わりにしようと、魔方陣を展開したその時。違和感を感じた。
……その前にちょっとだけ自慢をする。
そうしないとこの違和感を説明できないのだ。
さっきから何気なく土塊を呼び出しているこの魔術。
実は俺の研究の賜物で、世界に俺だけが使える転移魔術なのだ。
論文の名前は
『不確定転移座標および転移前目標に対する術式構文の最適化』
である。
ざっくり言うと、転移する対象をしっかり把握していなくても、術者がイメージした対象に似たものを任意座標に呼び出す事ができるというものだ。
転移魔術というものはセンスが必要と言われている。そのセンスとは、物事を正確に捉える事。転移する対象をしっかりと把握していなければ、単に対象と転移座標を術式に代入した所で入力のエラーが起こり、魔方陣は粉々になってしまうのだ。
だが俺の論文ではその問題を解決する手助けをしている。物事を正確に捉える事が苦手な術者でも、そのイメージが対象と似ているならば術式が自動的に最適化を行い、転移を滞り無く行なえるのだ。
で、やっと違和感という説明になる。
術式を構成しイメージの値を代入した後、座標を与えようとする正にその時。
何故か座標指定点が僅かにズレるのだ。
さっきから呼び出している座標のは足下から五十メートル先。
呼び出そうとしているイメージはA4大の大きさの土塊。
今その場所に、転移座標を拒むものが存在する。
何も無ければそこから土塊をえぐる形で転移させるのだが……拒むものが大きくて、術式がエラーを吐く。通常の術式ならここで魔方陣が無に帰すのだが、俺の作ったこの転移魔術は最適化の構文が術式に組み込まれている。魔術を強引に出力するため、都合が悪いとすぐ座標をズラすのだ。
土塊でなければ岩かな?
そう思い、転移する物体の質の情報を変えて代入するが、やはりその地点だけつるりとズレてしまう。
こうなるとあとは土でも石でもない、生物的なものが埋まっているか空間になっているか。そのぐらいしか原因が考えられないのだが……
もしかして迷宮でも地中深く埋まっているのか?
んなアホな、と思うが一度そう思ってしまうと段々その気になってくる。
もし、万が一俺の真下に迷宮があるとすれば。
下手をすると……大もうけの予感がする。
産業と言うだけあって迷宮発見の時には国から報奨金が出る事は周知の通りだ。
規模によっては数千万円、下手をすると億にもなるとも言われている。
作品名:ダンジョンインフラ! 序章〜第一章 作家名:三ツ葉亮佑