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三ツ葉亮佑
三ツ葉亮佑
novelistID. 46180
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ダンジョンインフラ! 序章〜第一章

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 早く帰った所で勉強くらいしかやる事も無く。
 遅く帰った所で倫姉ちゃんと鉢合わせしてしまう。
 別に友達がいるわけでもないから一人でカラオケとかボーリングとか行ってもつまらないし、ゲームもあまり興味も無いからゲーセンは最初から選択外。
 そんな寂しい俺の行き先は、この暁高と家のちょうど中間地点にある、街を分断する川だ。
 国に指定されている一級河川というだけあって、河原はかなり整備されている。公園もあれば野球場のグラウンドもあり、今もどこかの学校の野球部が練習場として使っている。
 俺はその整備された広場から少しだけ離れた原っぱに座り、本を読んでいた。
 何度も何度も読み返した、転移学術の学術本。
 書いたのは転移学術でその人有り、と言われた播磨坂宗治郎。
 言わなくても解るだろうが、俺の親父である。
 親父は転移学術の礎を築いた人の一人と言われている。机上の学問を好まず、常にフィールドワークにて転移魔術を実戦し、極めたと言う。
 フィールドワークと言うのはとどのつまり、国軍に追随して迷宮探索を行なう事を意味する。
 迷宮探索はこの国のみならず、他の魔法産業の盛んな国ではよく行なわれている国家プロジェクトだ。特にこの帝国は迷宮の出現率が高く、世界随一の迷宮産出国でもある。
 迷宮とは……と説明したい所だが正直よく解っていない。
 俺が知らない、というワケではない。
 本当に誰も知らないのだ。
 学者ですら、その実態を知る者はいないのである。
 それでもなんとか三行で説明せよ、と言われたら、

 町中に突然出現する、
 魔圧濃度が桁違いで無尽蔵の、
 怪物蔓延る危険な魔境

 とでも言えば良いのだろうか。
 魔術が発見され、解析された二百年前から、突如世界中に現れた迷宮。
 それは様々な形で現れ、時に洞穴であったり、時にはれんが造りの倉庫のような様相であったり、宮殿のような豪華なものや塔のようなものもある。
 中身も様々で、部屋一つだけのものもあれば、永遠に続く階段や無数の大小の部屋を有するものなど様々だ。
 特徴的なのは、魔術を展開する上で必要な情報要素の量、いわゆる『魔圧』が地上の数十、下手をすると数百倍の濃度を持つのだ。
 しかもその量は無尽蔵で尽きる事はほとんど無い。その迷宮にいる限り、地上ではできなかった大規模な魔術展開も容易に行なう事ができるし、高出力な魔術機構施設も手軽に扱う事ができるのだ。
 もちろんその特徴を含め、迷宮が『何故』『どうして』『誰が』『何の為に』『そこに在るのか』は誰も解らなかった。
 だが、人は理由等は脇に置き、とりあえず使ってみる事でその迷宮に価値を見出すに成功する。
 そして二百年が経ち、この世界は一気に技術水準が高まる事になる。
 今まで石油といった化石燃料は必要無くなり、電気が縛られる特性や、それどころか重力に至るまで殆ど万物のルールを無視することを、魔術が可能にした。
 二百年前の人々が夢見た、空を飛ぶ車だとか、一瞬で別の場所に移動するドアなどなど。今では当たり前のようにそこにはあるのだ。
 人類に夢を与えた、魔術、そしてその炉である迷宮。
 もちろん、タダで使えるわけではない。
 迷宮はそのままでは、ただの危険地帯に他ならない。
 何故と言えば、さっき言った『怪物蔓延る魔境』という部分。
 迷宮の中は、大小関係なく必ず怪物達が巣くっているのである。
 それは遥か昔、この帝国で言えば人々が『妖怪』と恐れた異形であったり、別の国ではおとぎ話や神話に出てくる『モンスター』といったものであったり。迷宮の様相と同じく、様々な怪物達がいるのである。
 何故そんな連中がいるのかは、やはり解らない。
 ただ迷宮から出る事が出来ない事から、迷宮の何らかの特性による副産物であると考えられている。
 このままでは人々が扱うような魔術施設としての機能を果たす事ができない。
 ここで登場してくるのが、国軍である。
 強烈な魔術武器を装備して、迷宮の中に巣くう怪物達を一匹残らず掃討する。
 その後にダンジョンインフラ等の、迷宮専門の魔術設備の保全会社が立ち入り、人が入れるように整備を行うのである。
 そして競売にかけられ、時に国の施設になったり、時に企業の施設になったり。時には個人が買い取って利用する場合もあるのだ。
 親父は迷宮を掃討する国軍に追随して、バックアップを担当しつつ転移魔術の技術を磨いていたそうだ。時には戦闘に参加したという噂もある。
 俺もそんな風に国軍に追随してみたいのだが、親父がフィールドワークをしていた十年前ならいざ知らず、昨今の国や企業がコンプライアンスを重視する世の中ではそれも適わない。
 結局の所、今の世の中では我慢して高校を卒業した後、大学で研究室に入る事でやっと自分の時間、自分だけの勉強の環境ができるのだ。
 全く以て、くっだらない。
 ほんっとに無駄だ。
 どこの老害がこんなシステム作り上げたんだ?
 過去の栄光に縋って、自分たちの生い立ちをなぞらせようとした結果がコレだ。
 ブァァアアアカが。
 そんなんだから、最近他の国に技術水準を追い抜かれたりするのだ。
 かったるいことを六年も七年もやってりゃ、天才だって腐る。
 そこらへんのと一緒に、あんよを揃えた愚鈍に成り下がる。
 だから俺は友人を作らない。
 一緒にいるとバカになりそうだ。
 環境は人を変える。
 朱に交われば赤くなる。
 だから俺はただひたすらに、一人で、転移学に打ち込みたいのだ。
 ……その為にはまず進級しなければ。
 最近薄々気づいたのだが、やっぱり転移学術に特化しすぎると言うのも問題かもしれない。
 もちろん無駄な時間だと思う。
 だけどそうやって否定して突っぱねた結果がコレだ。
 最終手段として特別課外実習——つまりボランティア活動にて成果を残す事で単位を貰うのだが——それだけは勘弁だ。
 こんな貴重な若い時間を、タダ働きで終わらせるのか?
 考えただけでゾッとする。

 ……でも、それしかないなぁ……

 既に詰んでいる現状に絶望して、カクンと首を下げて両膝に顔を埋めた。
 すると突然、頬にヒヤリとした感触。
「ふひょぁあああ!」
 という情けない声を上げて振り返ると、そこにはいつもの彼女がいた。
 ウェーブのかかった金髪に、白磁のような白い素肌。
 大きな青みのかかった瞳が夕日をキラキラと写していて、その唇は薄めのピンクのルージュ。
 その顔は美しい、としか言いようの無い美貌だった。
 この人はアヤさん。
 本名は知らない。
 最近この河原で知り合った。時々こうやって河原で出会っては、小一時間話をするだけの仲である。
 何でまたこんな綺麗な人と出会えたのか。
 今考えると本当に不思議だ。
 確か三ヶ月か四ヶ月前だった気がする。
 今日のように河原で一人ポケッとしていたら、背後でいきなりブレーキ音がした。
 振り返ってみると、今時珍しいタイヤ式の大型バイクが今にも野良猫を轢きそうになっていたのだ。
 あの時の俺の対応は神がかっていたと思う。
 とっさに<目視座標転移魔術>を展開。
 野良猫を適当な座標に転移させて事なきを得た。