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三ツ葉亮佑
三ツ葉亮佑
novelistID. 46180
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ダンジョンインフラ! 序章〜第一章

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 と、怒りをあらわにすると、倫姉ちゃんは思いっきり溜め息をつき、可哀想な目で俺を見つめてきた。
「あのなぁジン。単刀直入に言うぞ? どうして軍事転用を目的にした論文を書いた?」
「かっこいいから!」
 と言った瞬間に頭に衝撃が走った。
 目の前がチカチカして、星が飛んでいるような錯覚に陥る。そして頭から滑り落ち、床にゴトリと落ちたのはさっきまで職員机の上にあった文鎮だった。
 さては俺の頭上に転移させたな?
 倫姉ちゃんの方をジロリ睨むと、彼女は既に論文を脇に置き、人前では絶対に吸わないような煙草を口にしてぷかーと煙を吐いていた。
「んなことだろうと思ったよこのブァァアアアカ弟。はい再提出。期限は明後日だからね。破ったら留年ねー」
 血のつながっていない弟とは言え、その仕打ちは鬼じゃないのか。
「ちょっとまった倫姉ちゃん! 内容は! 内容はどうなんだよ!」
「ん? 内容? それは合格」
 さらりと合格を賜った。
「なら! いいじゃねえか! アブストラクトなんかどうでもいいじゃんよ!」
「ダメ。結果は良くても動機が歪んでいる。理由は以上。書き直せ」
「倫姉ちゃん、ちょっと聞いてくれ。かっこいいから、というのはまぁ半分くらいは冗談だけど、この論文は至って真面目に書いているんだ!」
「なんだ?『軍用の甲型一式攻撃魔術の一種、放出系に属するものは出力が距離に二乗して威力減衰する現状を解決するため、転移魔術を並走展開して飛距離を飛躍的に伸ばすのを目的とする』のどこが真面目に書いたんだこのクソ弟。五十年前ならまだしも、平和な世界の今にこの論文を提出してどうするんだよ」
「そんな世の中でも似たような研究をしている人は沢山いるんだよ? 索引みなかったの?」
 必死に言い訳をしてみるものの、倫姉ちゃんはこちらの熱意を受け流すようにタバコをただただプカーっとふかすだけだった。
 正に暖簾に腕押しである。
 だが俺は諦めない。
 この論文の価値は、客観的に見たって価値がある。
 出す所に出せば、成果は確実に出るはずだ。
「ちゃーんと見た上に論文検索までかけたけどな。ああいったものは本当に軍とかにいる人が書いているんだよ。そういう論文はそういう人達に任せなさい」
「そこまでしっかり読んでいるなら! 今回の論文の凄さがわかるだろう? 俺だってここまで書けたのは怖いくらいなんだ!」
「理解している。お前の凄さは十分に理解している。いわゆる『魔法中継』という分野は言うのは簡単だが難しい。下手をすると光りより早く奔る魔法にどうやって座標を置いてやるか、どうやって高速演算を処理するかというだけで、途方も無い努力が今まで築き上げられてきたはずだ。そしてお前のアイディアは荒っぽいが、もしかしたら乙型一式の工業用魔術なら、もしかするとできないこともないかもしれない。でもな——」
 タバコの灰をトントンと落とす倫姉ちゃん。
「お前の論文は役に立つだろう。だがそれは、下手をすると人を殺める手段にもなり得る。ジン、毎回言っているじゃないか。
 実入りの大きいものだけを選ぶな。
 功名心で知識を深めるな。
 あの人の——父上の言っていた言葉じゃないか」
 それはそうだが。
 そんな事を言ってられないのは倫姉ちゃんが一番良く知っているじゃないか。
 俺は自分で言うのもなんだが、天才的な転移魔術のセンスがある分、他の魔術が壊滅的にダメなのだ。
 この論文が通れば晴れて三年生に進学する事ができるのだ。
 内容が十分なら良いじゃないか。
 倫姉ちゃんだって、給料の安い高等学校教諭なのだから学費という面でも俺が進級した方が良いに決まっている。
 なのに、何故。
 だから高校なんて嫌いだ。
 本当ならば高校なんてさっさと止めて、その分野の仕事をしたい。
 ただこの国は最低でも高等学校を卒業していないと、どんなに力を持っていても研究分野での就職は門前払いされてしまう。
 俺が二年生の時に国際学会レベルの論文を書き上げたとしても、頭が固く年功序列を愚直なまでに守る帝国学会に「まだ君には早い」という一言でもみ潰されてしまうのだ。
 転移魔術を愛しているからこそ、俺は一刻も早く高校を卒業して、さっさと外国へ留学したたい。そして外国の大学で飛び級に飛び級を重ねて博士号を取り、転移魔術を極めると言う夢があるのに!
「……そんなのは建前だよ倫姉ちゃん。論文でも何でも、力こそ全て。実力こそ全て。そして使えるかどうかが全てなんだ。倫理なんて犬にでも食わせればいいんだよ」
「ジン! お前は!」
 ダン、と机を叩き立ち上がる倫姉ちゃん。
 だが俺は怯まずに睨み返す。
「なんだよ! 親父が浮かばれないってか? じゃあ聞くが、そんな崇高な考えを持つ親父が、なんでさっさと死んだんだ? 転移学術のせいでよ!」
 俺が怒鳴ると、こんどは倫姉ちゃんが黙った。
「俺はな、他人である倫姉ちゃん以上に親父からその言葉を聞いていたんだよ。でも結果はどうだ? 自分の研究を取られた上に、それが元で行方不明、最後は禁止区域に出入りした挙げ句、自殺して見つかってな!」
「……」
「何が『実入りの大きいものだけを選ぶな』『功名心で知識を深めるな』だ。実入りの大きいものを研究して力を得て、貪欲に知識を深めて力にする。これが全てなんだよ! 俺は親父みたいに綺麗ごとを並べて犬死はしない!」
 と、言った所でまたしても頭に重い衝撃が走る。倫姉ちゃんがよくお仕置き用に使う、丙型壱式転移魔術の中でも基本の基本、<目視座標転移>だ。
 さっき頭に落ちてきた文鎮が今度は二つ、床に転がる。
「……犬死は訂正しろジン。どんなにあの人の息子であっても、侮辱だけは許さん」
「なんだ、『他人』が俺達家族の親子喧嘩に口出しするのか?」
 ハッとして、口をつぐむ。
 いつも言ってしまう、とっても失礼な言葉。
 倫姉ちゃんが顔を歪めて、今にも泣きそうな顔になる。
「……播磨坂陣。どんな理由であれ、『魔術を人々の為に使う』と謳うこの暁高において、君の危険思想を孕んだ論文を提出する事はできない。この論文は受け付けない。以上だ」
 といって、倫姉ちゃんは俺に背を向けた。
 言い返そうとはしたが、これ以上この部屋にいる事はできなかった。
 黙って部屋を出て、そのまま俺は家に帰る事にした。
 この後は授業が入っていたのだが、どうせ転移魔術以外は何もできないんだから、いてもいなくても同じだ。
 こんな偏屈に会わせる友達もいないし、心配するやつだっていない。
 ああ早く卒業したい。
 こんな退屈な、高校と言うしょうもないシステムから、一日でも早く。
 なんで無駄な勉強をしなければいけないんだろう。
 俺は転移魔術しかできないんだから、転移魔術だけしていたいのに。