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三ツ葉亮佑
三ツ葉亮佑
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ダンジョンインフラ! 序章〜第一章

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第一章


 魔術が発見されて、二百年が経った。

 今はもう、その根幹を理解して魔方陣を展開する人など殆どいないだろう。
 テレビの電源をつければ当たり前のように画像が映るように、コンセントを入れれば冷蔵庫が冷えるように。魔術もまた、当たり前のように詠唱をすれば展開できるのだ。そのぐらいに、今では人々の生活に深く浸透している。
 そして浸透した技術は当たり前のように、学問として地位を確立していた。
 魔術は決して、お話の中のようなオカルトの類いのものではない。
 むしろ、数学に近いとも言えるだろう。
 魔術の詠唱は大体四段階に別れる。まず魔方陣を呼び出す。難しい言葉だと陣構築基礎魔数式なんて言うが、まあ要するに紙とペンを用意するものだと思ってくれ。紙は魔方陣。ペンは数式を書くものだ。
 次に術式を呼び出す。術式というのは魔数式で構築された式であり、目には見えないが空気のように漂う、万物を現す情報媒体構成式だ。特にこの段階で呼ばれる術式は魔数式関数と呼ばれ、魔術の展開に特化した術式だ。
 そして肝なのは次の段階。代入と呼ばれているものだ。関数の変数に数字を代入すると回答が出力されるように、魔数式関数の中にある変数にとある情報要素を埋め込むと結果として、魔術が展開されるのだ。
 情報要素も厳密に言えば術式だ。まぁ、式と言うよりも最早数や物質といった概念に近いかもしれない。語弊を恐れずに言えばそれは例えば火の情報要素であったり、水の情報要素であったり。その情報要素にあった答えとして、魔術がはじめて成り立つのだ。
 そして最後に魔術を発現する。数式の答を出すのと同じで、大抵の場合は術式に情報要素を代入した時点で術式が演算を開始して、自動的に答えとして魔術が出力される。もちろん発現のタイミングを変える事もできる。 
 さて簡単には説明したが、日常で使われている魔術はこんなに簡単で単純なものではない。複雑な術式が絡み合い、絶妙なバランスとタイミングで発現するのだ。
 その構成は技師達の血と涙の結晶であり、その式一つ一つにドラマがあるのだ。

 最早、電気技術となんら変わりのない魔術。
 その技術を学ぶ学校は、この国の至る所にある。
 ここもその学園の一つ。帝国第二十一番都立暁総合技術高等学校、通称「暁高」は魔術専攻学科を有する高校である。この辺りの高校でも上位の学歴を誇り、著名な魔術技師を何人も輩出している名門校である。
 古めかしくも厳かな佇まいの校舎は今年で建立六十周年を迎え、晴れて国の重要文化財に指定された。
 大変な名誉を預かったと喜ぶと思いきや、このボロ校舎が立て替えられる望みはついに消え失せたとの認識が多い。生徒達は揃って失望の声を上げていた。
 そんなオンボロで継ぎ接ぎだらけの校舎の片隅。各教諭達に割り当てられる、物置小屋とも揶揄される小さな個人職員屋の一室。その中央に、俺は立っていた。
「ジン。これは一体なんだね?」
 空調の利いた空間に、氷のような冷たい声が響く。
 担当教諭の白玖倫音教諭は僅かに怒りを滲ませて、俺の論文を机に置いた。
 赤縁メガネの奥、つり上がった大きな瞳がこちらを射抜くようにじっと見ている。
 まるでこちらの出方を伺っているようで、その所作には隙が無い。
 こんな場面に限らず、校内一の美人と言われる白玖教諭は本当に隙が見当たらない事でも有名だ。ガードが固すぎて誰も近寄れないとのことだが、そんな事では結婚できないぞと思わず心配してしまう。
 と、そんな戯れ言を考えている場合ではない。
 ここが天王山。
 明日以降の分かれ道だと気合いを入れなおして、俺は直立不動のスタイルを取り続けた。

 現在この俺、播磨坂陣は進級の危機に立たされている。

 転移魔術以外はからっきしの俺に与えられた救済処置。転移魔術に関して優れた論文を書き、提出する事。
 前年度はそれを全うし、こうして二学年に進級ができた。しかし前年度の論文が思ったよりも高評価を得てしまったため、今年の分のハードルがかなり上がってしまった。
 その為、俺はここ一ヶ月間、本末転倒ではあるものの学校にも行かずに必死になって論文作成に勤しんでいた。
 アイディアを考える事は簡単だ。転移魔術は俺の生き甲斐であり、この先もこれ一本で食って行く……いや、いけるという自負も持っている程だ。
 だが論文と言う形に自分の熱意を顕現させたときの、なんたる雑用の多さか。作文を書けというなら簡単だ。脳から湧き出るしょうもない文字列をただただ陳列して最後に「すごいとおもった」で締めくくれば完成である。
 だが論文はそうじゃない。理論に基づいて自分独自のアイディア、主張を論理的に記さなくてはならない。理論に基づく為に膨大な知識を必要とし、それを踏まえた上でアイディアを提示しなければただの荒唐無稽の妄想文に成り下がってしまう。
 本来ならこれは大学生であるとか、研究生とかそういう人達が悩む領分なのだろうが、俺は高校生の身でありながらこれを強いられている。
 まったく、本当の意味で得意分野を持つと言うのは常に高レベルな事を求められるものだなと、何故か上から目線で言ってしまいそうだ。
「ジン。播磨坂陣!」
 と、妄想に耽っていると白玖教諭が目尻をつり上げていた。
 何をそんなにイラついているのだろうか。
 俺は貴方のオーダー通りに提出したと言うのに。
 というか、二人きりなんだからこんな立ち方しなくてもいいだろう。
 どこまでビジネススタイルを気にするんだこの姉は。
 イライラが伝播して俺までイライラしてくる。
 姉はそんな意図を悟ったようで、白玖教諭は机から立ち、個人職員室のドアから顔を出して人がいない事を確認すると、「外出中」の札をかけて鍵をかけた。
 そこまでするか普通?
 もう俺と姉ちゃんが兄姉というのは皆知ってるぞ?
「プライベートで話そうか。これは一体なんだ愚弟」
「倫姉ちゃん、鍵かけるなら最初からやってくれよ」
 やっと解放されたので、ラフな立ち方に戻る。
 これで倫姉ちゃんと呼ぶ事ができる。白玖教諭って呼び方はよそよそしくて好きじゃないから嫌だったのだが、このように二人っきりかつ他人がいない場所で気安く呼ぶなと言う暗黙の了解がいつのまにか出来てしまった。
「いきなり部屋に鍵をかけたら何かと誤解されるだろ。ジンみたいな脳みそスポンジの、思春期真っ盛りな男共すぐそっちの方を考えるからな」
 と、ファンの男子生徒が聞いたら卒倒しそうな言葉を吐いて、倫姉ちゃんは安そうな職員用の椅子にドカッと座った。
「なぁジン。家で籠って書いてたのは知ってた。頑張っていたのも知っている。けれどもこれは無いだろう」
「これはって言うと? 俺の論文の書き方が悪かったか? 別にどこぞの脳が足りない大学生みたく、出典はウィキとかそう言う事はしてないけど?」
「そうじゃないジン。目的の事だよ。論文の目的」
「目的がどうかしたの?」
「……真面目に言っているのか愚弟。茶化すのもいい加減にしろ」
「倫姉ちゃんよ、黙って聞いてりゃバカにしやがって。何がいけねえんだよ! いい加減にしろ!」