恋していいかな。
和尚もついに年が来て、少年を残したまま
あの世に旅立った。
和尚は最後にこういった。
「お前は年はとるが、見ためはかわらない。だけど
一生私が教えた人間の気持ちだけは忘れるな。」
和尚はそう言い残し、あの世に逝った。
少年はその気持ちを忘れずにずっとその時を過ごした。
春には桜が咲き、夏には緑が生いしげセミたちの鳴き声
秋は緑は枯れ葉になり秋風に木枯らしをならし
冬には山に積もる雪になった。
そんな時を何年、何十年と過ごした。
気づいたらまわりは戦国の世。
各地で内戦が繰り広げられていた。
その内戦は少年がいる山奥の神社まで
迫ってきた。そう一向一揆である。
僧は武装し、戦国の武士たちと戦うことになったのだ。
僧「犬神様!ここはいずれ戦争になります!早くお逃げください!!」
少年「いや、私も戦います!あなたたちやコノ山の者たちを助けないと!!」
僧「そんなんであなた様の命がなくなれば私たちはこの神社の神に示しがつきません。」
少年「しかし、私には神秘の力があります。その力をつかえば・・・・・」
僧「なりません!そんなことにあなた様は犬になるというのですか!?」
少年「こういう時にこそ使うべきなのでは?」
僧「でもあなたはまた正気を失って我々まで殺しかねません。また昔のことを二の舞にしたいのですか?」
少年「そうですね。あなたたちを殺すわけにはいきませんもんね。」
僧「そうです。だからお逃げください。敵が来る前に!」
少年「くっ。かたじけない!」
兵「いたぞ!僧侶たちを殺せ!!」
少年は後ろを振り向くことなく泣きながらその場を走りだした。
耳から聞こえてくるのは、怒号と刀の鳴り響く音。
その音を聴きながら少年はその音を背に逃げて行った。
少年「このままでいいのか。俺はこんなんで逃げていいのか。彼らを助けることはできないのか。」
少年は山の上まで逃げた。
そして光景をみたときあっとした。神社が燃えているのを。
和尚と出会った場所。和尚とすごし修業に励んだ場所。
そして自分が何年も暮らした思い出が詰まった場所・・・・・・・・・
少年は覚悟した。怒りが込み上げ悲しみ、憎しみが湧き上がり
ついにその姿になった。
そう。少年は犬になった。
そしてその犬のまま山を駆け下りて行った。
少年は走っていった。
火が焚かれている自分の故郷へ。
兵士「ほれほれ!僧の分際で!!」
兵士「おらっ!・・・・・なんだあれは・・・・・・!」
兵士「なんかでかい影がちかづいてくるぞ!!」
犬は火を潜り抜け、あたりの兵士を一掃すべく
独りを巨大な手で打ち払った。
兵士「うわぁ!」
兵士「この化物め!!」
昔とは違う。無数の玉が飛んでくる。鉄砲だ。
鉄砲の弾はまたたくまに犬の身体に食い込んでいく。
兵士「撃て!!」
パパパパパーン!
僧「犬神様。。。なぜもどってきたのです。ここはもうおしまいだっていうのに。」
僧が犬神を逃した理由。それはもう死ぬことが分かっていたから。
そして神様である少年にこんな汚い醜い戦いをされたくなかったからだ。
犬は悲痛に叫ぶ。
自分の傷よりも心の傷のほうが深かった。
犬は泣いた。そしてとうとう動けなくなった。
犬には無数の鉄砲や弓を身体にくらい、なおかつ
足もとは兵士たちの刀できりきざまれた傷。
身体はもう血にそめられていた。
気づいた時には当たりは日に染められ
神社は炭になって廃屋になっていた。
犬はそのまま眠った。
僧「ああ・・・・犬神様。なんという姿に。私たちの醜い戦いに巻き込んでしまい
もうしわけございません。仲間もみなやられてしまいそれにあなた様を失うのは
私は悲痛に感じます。どうぞごゆっくりお休みくださいませ。次起きた時には
かならずあなた様は幸せになれるでしょう。どうかその日まで。」
犬はそのまま身体は静かに光を放ってなくなり
その世にはいなくなったのだった。
その後僧は和尚となりそこに大きな神社を立てた。
その神社は「犬山神社」と名付けられ現在まで残っている。