エイユウの話~狭間~
2
またなといわれてから三日がたった。結局あのあとあの人たちと会うこともなく、俺はショックから開放され、平穏な生活を取り戻していた。平穏な、一人の日々を。
そんなある日。その平穏が崩された。
「サーッカッキ君!」
食堂で昼食を運んでる俺の背中を、勢いよくたたいたアホがいた。この呼び方で、もう誰だか解ってしまう。しかもこの間知ったのだ。この男の相手をしては、平穏は確実の崩壊するのだと。だったら対策は一つしかない。俺は彼を無視して進む。が、彼は俺の昼食を持ち上げると、それをふらふらと勝手に運び始めた。歌を歌いながらふらふらと動く男の姿に、堪忍袋の緒も切れる。やっぱり、この男を無視し続けるのは無理だ。
「返しやがれ、このアホ先輩!」
「無視した君が悪ーい!さあ、ついてきたまえ!」
不気味な笑い声とともに、奴は走り去った。当然だが、昼食はまた買えばいいわけで、わざわざあの変人に付き合う必要はない。いなくなれば無視もしやすいし。俺は迷わず再び食券機の前に並んだ。
ノーマンが去ってから十分近くが経った。もう少しで俺の番、というところで、隣から耳をひっぱられる。怒りに任せてそちらを向けば、落ち込んだノーマンが目に入った。そして彼の手が、俺の耳元に伸びているのもはっきりと。
「ついてきたまえと言っただろう。俺に君の昼飯を食べる気持ちはまったくないし」
俺は眉間にしわを寄せてから、視線を食券機にもどす。あと三分もすればもう買えるはずだ。いつもはこんなに混む前に買ってしまうので、少し新鮮な感じも感じられなくはない。すこしは楽しむ感情もあったくらいだ。
ノーマンを無視したまま、食券を購入する。気持ちも新たに学食を待つ俺を、ノーマンが列から引っこ抜いた。勢いよく腕を引かれたおかげで、俺は転ぶ羽目になる。食堂の床は前回の芝生とはまったく違うもので、かなり痛かった。手加減の一つでも覚えたらどうだと本気で思う。
痛がる俺の横で、仁王立ちのままのノーマンによる説教が始まる。
「食べ物を粗末にするのは感心しないな。君の買ったあれらはどうする?」
ああ、本当に人の考えなんかどうでもいいんだなこいつ。そう解ってしまったら、もう我慢できなくなった。俺も人目を気にせず言い返す。
作品名:エイユウの話~狭間~ 作家名:神田 諷