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エイユウの話~狭間~

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 こんな俺でも噂には聞いていた。
 見事な金色の髪をなびかせ、たくましいサイの魔獣を従えるというその男。群れるのを嫌い、その強さは他を寄せ付けないとも聞いた。女術師はほかより、男術師からも絶大な支持を得るヒーロー。恥ずかしながら、俺もそのヒーローを陰で憧れる人間の一人だった。
 そのヒーローの名が、ノーマン・ネージスト。それは同時に緑の最高術師の名であり、それがこの変な先輩の名であるというのだ。この茶髪で、心底ふざけた性格で、知らない一年にもひょいひょい話しかけるこの男が。
 俺の中で、盛大な音を立ててノーマン・ネージストの何かが壊れていった。しかし本人はけろりと笑う。どんなにふざけていても今まで一度も笑わなかったのに、こういうときだけなぜ笑う?
「あれ?どうした?」
「どうせまた、あの被害者だろう」
 どうやら彼の本質を知って幻滅するものはあとを絶えないそうだ。噂の一人歩きということである。まったくどうしてくれようか。ショックのあまり、開いた口がふさがらなかった。
 よろよろと場所を移動する俺の後ろから、ノーマンの声が聞こえる。
「また会おうな、サカキ君!」
 相変わらず間違えたままの名前に、俺は応える気なんてさらさら起こらない。それどころか、雲ひとつない青空が、俺のこの絶望を吸い取ってくれることを願っていた。
作品名:エイユウの話~狭間~ 作家名:神田 諷