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エイユウの話~狭間~

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「うん、やはり今の顔はよくない。とても好きなことを語る顔ではなかったな」
 世の中に、好きなものを語るときの顔なんて定義はあったか?
 意味不明な発言をくり返すそいつの元に、もう一人、別の術師が来た。緑を専攻している先輩とも、明を専攻している俺とも違い、その先輩は奏(そう)の術師だった。そして彼は俺でも知っている存在だ。夕暮れのように鮮やかな赤さの髪をもつ、奏の最高術師である。たしか、ギーランティと言ったか。
 彼の姿を見て、脚に掴まっていた先輩が空いている手をぶんぶんと振った。他専攻の術師と友人であることは、さほど珍しいことじゃない。合同授業よりも、専攻授業のほうが少ないくらいなのだから、当然といやぁ当然だ。だから同専攻にも、他専攻にも友達のいない俺のほうが、ずっと珍しいと言える。
「ギール、こっちこっち!」
 愛称プラス手招きという動作から、二人はけっこう仲がいいとわかった。話し始めたら、足を引っこ抜くチャンスになるだろう。それにしても、友達を呼ぶときくらい笑わんのか、この人は。
 緑の先輩に気付いた最高術師は、向きを変えてこっちにむかって来る。ひどく怒っているようだ。サボっていることに怒っているのであれば、俺も火の粉を浴びるに違いない。さっさと逃げるべきだ。体の下にあった腕を抜いて、体勢を直す準備をする。
 彼が手を握り締めているのがわかった。何かを持っているとか、そういうのじゃなくて、あれはただの「殴るためのこぶし」だ。
 俺の目の前に立った彼は、それを思い切り振るった。思わず目を瞑る。が、俺の頭に痛みは来なかった。代わりに足元から声がする。
「いったぁ!」
 お、俺じゃなかったのか。つい安堵の息が洩れた。緑の先輩は殴られたのだろう部分をさすりながら、その人をにらむ。意外と青色の目に迫力があった。「なにすんだよ」
 しかし、ギールさんの緑色の目のほうが、ずっと怖かった。もう開放されたにも関わらず、俺は動くことも出来なかったんだから。
作品名:エイユウの話~狭間~ 作家名:神田 諷