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エイユウの話~狭間~

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「何事?」
 立ち上がったあたしは、金魚を召喚したばかりの友人に話しかけた。すると彼女は、あたしのほうを見ずに、呆然と答えてくれる。
「金糸が・・・」
 金糸、ということは、例の彼か。キート・・・なんだっけ?忘れたけど、彼が何かをしたらしい。だからこんなぬめっとした歓声なのか。
 イモリに待っていてくれるように頼んだ私は、人混みを掻き分けていった。ある程度進んだところで背伸びをする。すると、彼の綺麗な金髪が見えた。忌み嫌うほどの色じゃないわよねとか余計なことを考えていると、その視界に黒いものが見える。
 黒豹だった。どう間違えたって大型の獣型には違いない。
「うそ・・・」
「獣型だー!金糸が初っ端から大型を呼びやがった!」
 そうクラスの男子が騒いだ。当然よね。一回目の召喚で獣型を呼び出すなんて、魔力の使用分量を間違えたとしか思えない。だとしたら、今はおとなしくても、いつ暴れだすかなんてわかったもんじゃないわ。いくら優秀といっても、使用分量を間違えるような初歩的ミスをするようじゃ、イモリのあたしのほうがずっといいじゃない。
 思わずそう、ほくそ笑んだ。少なくとも今回は、あたしの勝ちだったわね。
 男子の声を聞いた導師様が、巡回を中止してあたし達の間を抜けて、彼の元に着いた。導師様は黒豹との間合いに気をつけながら、彼に近づこうとする。黒豹はまだ、紋の中でおとなしくお座りの姿勢をしていた。彼は何を考えているのか、動こうとしていなかったわ。怖くて動けないのかしら?
 導師様がもうちょっとで彼の近くにつくというその時、黒豹が彼に飛びかかった。導師様も慌てたが間に合わず、彼は黒豹に押し倒される。そして顔を近づけ、口を開いて牙を覗かせた。
 彼が食べられると思い、その場にいた全員が目を瞑ったわ。女の子たちの盛大な悲鳴までとどろいた。でも、残酷な音は一切なく、代わりに笑い声が聞こえてきたのよ。
作品名:エイユウの話~狭間~ 作家名:神田 諷