エイユウの話~狭間~
「明の一年・・・ってことは、おまえ、サカキか」
「わざとかと疑いたくなるような間違いですね」
わざとだろうと思いながら、しかし自分の名前なので腹は立つ。読み間違えられることは多いが、普通「クサカ」と読まれるほうが多い。まあこの学園に入ってからは、音だけで覚えている奴も多いから、数はかなり減ったけれども。
「あれ、違ったか?俺の顔知らないっていうから、いつもサボってるやつかと思ったんだが」
嫌味か。俺は平然とそういった先輩をにらんだ。彼はまだけろりとした顔をしている。基本スペックが失礼な奴なんだと解ったって、怒りを抑えられるほど俺も大人じゃない。
さすがに頭にきたので、多少からかってみることにした。
「ちなみにフルネームは?」
「サカキ・ノウエンサだっけ?なんか、ちょっと読み方が変わってるんだよな」
彼の言葉に一瞬ドキッとした。読み方の指摘をされたことがないからつい焦る。とくに苗字は導師と話すとき以外使われないので、推測するほかないことも多いのだ。それを思い出して、冷や汗をかく。
そう、俺には秘密があった。それを隠すために人と付き合っていなかったし、授業にもあまり顔を出していないのだ。いや、もちろんそれだけじゃねぇし、今も秘密なことなんだけど。
俺はふっと身を起こすと、そのまま立ち上がる。パンパンと芝を落とした。天道虫がぽとりと落ちる。悪いな。
作品名:エイユウの話~狭間~ 作家名:神田 諷