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エイユウの話~狭間~

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 どすどすと四足で走って、地面のいたるところに傷をつけた。そのまま俺に向かって噛み付こうと牙を見せて飛び掛ってくる。紫色の口内が、なんともえぐい感じだ。
 そこで水をまとった手を勢いよく前に出す。が、それはフェイントだ。襲い掛かってきた熊の下から、勢いよく水を噴出させた。木属性に水は効かないが、水での強打や切りつけが効かないことはない。ただ、普通の相手よりも、多くの魔力を消費すれば、という話だが。俺の攻撃は熊を空高くに弾き上げた。
 いくら魔獣と言えど、あの高さから落ちれば無傷では済まない。もう俺の勝ちは決まりだ。しかし。
「ドンドガイル、吼えろ!」
 緑の術師が叫ぶと、中空で熊が吼えた。フォウンという声に、地鳴りが起こる。
 地鳴り?さっき吼えたときは地鳴りなんて・・・。と、そこで俺は気付いて足元を見た。先ほどの爪痕から、大量の植物が姿を現した。どうやら地面に細工をしたのは俺だけじゃないらしい。でも、相手は相性に油断しすぎだ。
 俺は二本目の火筒に手をかける。今度は地面に吸わせることなく、体の周囲に水を巻きつけた。そのまま駆け出す。俺を取り巻く水が、急速に成長する植物を切りつけた。途端に、植物が枯れだす。
「なっ!」
 緑の術師は口をあんぐりと開けて、たいそうなマヌケ面だ。
 植物なら、どんな種類にだって水道とよばれる水をくみ上げる器官がある。俺は水を切りつけた際に、そこにムリヤリ流し込んだだけだ。流れすぎた水は、植物を内側から腐らせる。枯れて当然なのだ。特に魔術合戦においては、自然植物の生育とは関係ないのだから、そういうことだって容易と言える。勢いよく入り過ぎたせいで、一部の植物は破裂していた。
 俺は手にまとっていた水を、そのまま相手に向かって放る。放るといっても、完全に俺から離れるわけではない。一部を放ったというだけだ。
 その次の瞬間、俺は自分の油断を自覚した。俺の目の前に熊が降ってきたのである。巨体のわりに、ずいぶんと動けるようだ。どすっと落ちてきた熊は、俺に向かって手を上げた。
作品名:エイユウの話~狭間~ 作家名:神田 諷