エイユウの話~狭間~
「あんた、今日の練習試合でねぇの?」
「出ようと思ったのだがね、対戦相手のアラッキルソンが忌引きでいないのだよ」
彼は変わらず、顔も上げずに答えた。最高術師の相手は最高術師にしか務まらない。それが今の定石だった。下手に次高術師をぶつけては、無駄に大怪我を負わせるだけである。そのため、ノーマンは今日試合に出れないらしい。ちなみに、いくら最高術師と言えどまだ術師なので、力加減なんて器用なまねはそうそうできるものでもないのだ。
正直、俺はこいつの戦いを知らない。昔は無条件に強いものだと思っていたが、今となってはとても信じられる話ではなかった。だから、他の術師の試合は見なくとも、彼の試合だけは、少しだけ楽しみにしていたのだ。それなのに見れないとは。自分の運の無さをうらみ、八つ当たりをする。
「自分はのんびり見学かよ」
「しょうがないだろう。今年は同じ人数だから、一人欠けたら一人出れないのさ」
奴は「正当だろう」とニヒルに笑った。別にサボってるだろと責めたつもりもなかったのだが。だいたい、明の人数が一人多かったとしても、アラッキルソンが出ない限り、ノーマンが試合に参戦することは無かっただろう。つまり、人数が合わないという事態を正当と言えるのは偶然の産物である。
俺の持ち物を一通り確認するノーマンを、暇な俺はじっと見た。そういえばこいつは、噂では金髪だと言われていた。今は疑う余地もないくらい、綺麗な茶色だ。金の面影なんて少しも残っていない。噂の全てが本物ではないとわかった今でも、確認しておきたいことがあった。
「・・・あんた、タッパなの?」
「は?タッパ?」
黙々と身辺検査をしていたノーマンが、きょとんとした顔で俺を見る。それは本当にわからないということを示しており、俺は思わず視線をそらして逃げた。
「あー・・・、違ぇよ。あんたのその髪、染髪法師(トッパ)にやってもらったのか?」
彼の髪が綺麗に染まっているのがよかった。自分や親にやってもらっても、きっとああは染まらないだろう。すると彼はあっさりと納得した。
作品名:エイユウの話~狭間~ 作家名:神田 諷