エイユウの話~狭間~
翌朝、俺は緑の闘技場にいた。ここにくるのは初めてで、緑の術師との戦いは初めてだった。だから、知識もレベルも解らない。でも逆に言えば、俺の能力も実力も、外に知れてないということだ。うまく活かせば利点になるだろう。
闘技場を中心に、すり鉢状に座席が並ぶ。大して目立ちたくもないし他の術師に感心もないので、一番後ろの席をどかりと陣取った。一度座ると周りに誰かが来ることも無く、悠々とした空間を確保できる。一人ならではの優越感だ。
練習試合への参加は二回目で、まだ勝手がわからない。席に座ったまましばらく待っていると、緑の準導師が現れた。準導師は前に立つとメガホンを持って説明を開始する。
「導師様がランダムに相手を選びます。選ばれた生徒は、待機室へ向かってください。それから、審査を受けていただきます」
審査とは、簡単に言えば不正がないかを調べるだけだ。まあ、筆記テストに言うカンニング防止策みたいなものである。授業が行われるのはもう五回目で、真面目な生徒たちはみな、友達同士で話し合っていた。毎回毎回同じ説明では、ああ飽きるのも仕方のない話だろう。稀にしか出ない俺にとってはありがたいけれど。
準導師は続ける。
「審査後、名前を呼ばれたら、闘技場に上がってください。そこで模擬戦闘をしていただきます。制限時間はありません。戦意喪失、あるいは続行不能と判断された時のみ終わりとします」
真ん中がへこんでいるのに「闘技場に上がる」というのは違和感がある。しかし実際戦いの場となる場所の周囲一帯にも椅子が存在し、また、同じ高さのところに控え室がある。そしてそこからは闘技場を「見上げる」形になるため、上がるという表現が正しいのだと納得できた。厭味な性格の俺には、こういうところがいちいち引っかかるのだ。
続けて準導師は右手に持っていたメガホンを、左手に持ち替えた。右腕を伸ばして闘技場右横を指す。その先にはクリーム色の屋根に、大きく「休憩場」と緑色で書かれていた。
「けが人は試合終了後すぐに、休憩室に向かってください。多少の傷であれ、流の術師の練習になりますので、必ず行ってください。以上です」
それは休憩場ではなく、救護棟の間違いでは?そんなことを抱いたが、それを話す友人もいなく、俺は一人で笑いそうになった。
作品名:エイユウの話~狭間~ 作家名:神田 諷