エイユウの話~狭間~
「さあ、ラックラッキ!ギールのところまで走れ!」
ノーマンで前が見えないのが、何よりも不安だ。というか、ドアから出れるサイズでもないし、これに走られたら大変過ぎる。俺はどすどすとサイが足を踏み鳴らしている間に、床はばきばきと亀裂を広げた。俺は迷わず向きを変えることにする。座る大勢になるのは不安だからだ。
俺がもうすこしで横向きになれるというときに、サイが走り出した。止めてもらおうとノーマンを見ると、その奥にある行き先が見える。
壁だった。
「ちょ・・・っ!止まれ止まれ止まれー!」
「ラックラッキは姿はサイだが、性質は猪に近くてな。そうそう止まれないんだ」
まさに猪突猛進。しかもパワーと大きさがあるだけ悪質だ。
せめてドア枠を壊すくらいだと思っていたのに、壁に向かって猛スピードで走っていく。今すぐにでも降りたい気分だが、降りたところでこのサイに踏まれて終わりだ。サイの歩いた後には盛大な亀裂が入り、テーブルの上に置かれていた花瓶が倒れていた。
サイが勢いよく壁にタックルすると、壁がガラガラと崩れた。そりゃもういとも簡単に、だ。
俺は誘拐されるような形で、サイに乗ったまま食堂を後にした。
作品名:エイユウの話~狭間~ 作家名:神田 諷