エイユウの話~狭間~
「なに食堂にサイ呼出してんですか!」
魔力を持たない通常のサイの、約二倍の大きさはあるだろう魔獣が姿を現した。術師たちが避けてくれたおかげで怪我人がゼロに済んでいる、といって過言ではない。大柄な魔獣にふさわしいのだろう重さに、床がぴしぴしと悲鳴を上げた。
俺は思わず相手があの「非人の緑者(ひにん・の・りょくじゃ)」だということも忘れ、その頭をはっ倒していた。
「馬鹿かあんたは!こんなところで出していいようなもんじゃねぇだろ!」
「なにをいまさら。出してしまったものはしょうがないだろ」
開き直る発言はおろか、一度たりとも反省していなかった。ウソでもそこは悪いというべきところだろう。頭をさすりながら、俺の手を引くと、平均体重は普通にある俺をひょいとサイの上に乗せた。意外とふかふかしていて、勢いよく乗せられたわりには、さほど痛みはない。その毛を必死につかんで、落ちないようにした。
「なに考えてんだよ、あんたは!」
「そりゃ何も考えてないだろ。何か考えてちゃ、時間がもったいない」
時間とか、そんな四次元な概念を持つくらいなら、部屋の空間を把握する三次元の観念を持ってはくれまいか?そんな俺の不満をよそに、ノーマンはほくそ笑んだ。
「俺はただ、サボり魔のコウハイ君と食事をしてみたいと思っただけだよ」
そしてそのためなら何の手段もいとわない、と。そういうことか。妙に納得できてしまうのは、彼の強引さのなせる業だろう。
ノーマンは俺の前にヒョイと飛び乗ると、サイに向かって指示を出す。
作品名:エイユウの話~狭間~ 作家名:神田 諷