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飛鳥川 葵
飛鳥川 葵
novelistID. 31338
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クロス 完全版

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「分かります? 実は金払いのいい患者さんがいたんですよ」
「ほう、そいつぁよかったな」
 二人は受付を後にして奥の部屋に向かった。中から悲鳴が聞こえてくる。患者がいるようなので待つコトにする。しばらくすると腕に包帯を巻いて手で押さえている男が、啜り泣きをしながら出てきた。
「次の方」
 男の声がしたので中に入る。
「なんだ、ロンか」
「ドクター・ランドルフ、あんた一体何したんだ、さっき」
「何、注射は嫌だと言うから麻酔なしで縫ってやったのさ」
「全くあんたって人は」
「用件はなんだ」
「昨夜、黒ずくめの男が来なかったか? 銃創患者なんだが」
「医者には守秘義務ってのがあるんだがね」
「無免許の闇医者がよく言うぜ」
 ロンは財布から一万バックス紙幣を一枚取り出して手渡す。
「やれやれ。来たよ。一九〇センチくらいの細身の男が」
「どんなだった」
「土手っ腹に二発食らってたよ。麻酔はいらないと言うから無しで摘出、縫合したがね」
「何時頃だ」
「真夜中過ぎだ」
「コードレッドが二十三時頃なので符合しますね、カーター刑事」
「あぁ。それからどうした」
「血止めの薬を渡したら十万バックス支払って帰っていったよ」
「化膿止めも渡せよな。弾は?」
「そこのトレイにある」
「押収させてもらうぞ」
 デービス刑事はピンセットを借りて弾を摘み、ビニール袋を貰って二つとも入れた。すぐに鑑識に回して弾道検査とDNA鑑定をしてもらわなければならない。二人は礼もそこそこに急いで署に戻った。
 夕方に弾道検査の結果が出た。被害体のアンドロイド二体のうちNO.11の銃と線状痕が一致したそうである。これで先に倒されたのがNO.12というコトが確定した。DNA鑑定は一週間後に結果が出るという。

 それから一週間は平穏な日々が続いた。聞き込みの成果は上がらずじまいだったが、鑑識から情報が上がってきた。
 一つはDNA鑑定の結果だった。二つの弾丸から採取された血液と現場の血痕が一致したという。参考人としてドクター・ランドルフを呼んだが、ロンが聞き出した情報以外は引き出せなかった。
 もう一つはアンドロイド部隊専属の鑑識からで二体の電脳の解析が進み、画像と音声が修復されたという。電脳とは機械化された脳のコトで、全ての情報はデータ化されて保存される。
 会議室のスクリーンが下ろされた。映像はクロスを職務質問しているところから始まった。クロスは「マンハント」と答えていた。決闘を申し込んで十バックス硬貨を放り投げる。地面に落ちるのと同時にトゥーハンドで撃ってきた。かなりの早撃ちである。映像が斜めになり、地面が映し出される。二発の銃声とともにブラック・アウトした。
 次いで倒れたNO.12とクロスの後ろ姿が映し出された。NO.11の映像だ。アンドロイドはいついかなる時でも後ろから撃たないように設定されている。職権行使の行き過ぎを防ぐためである。
 クロスが振り返ると、すかさずNO.11は二連射した。崩れ落ちたクロスに歩み寄り、かがんで様子を窺う。不意にクロスが笑い声を上げて下から二発撃ってきた。バランスを崩したNO.11をすり抜け、更に二発撃ち込む。笑い声とともに、こちらもブラック・アウトした。
「以上が鑑識からの情報だ。クロスが『マンハント』と言っている以上、これは無差別連続銃撃事件として取り扱う。何か質問は?」
 ロンが手を挙げる。
「射殺の許可は? それとガンマン協会などへの連絡は?」
「基本は生け捕りだが、奴は早撃ちだ。後ろから撃っても構わん。やむを得ん場合には射殺も許可する。ガンマン協会、用心棒協会、バウンティ・ハンター協会、軍へは自粛勧告を出す。他には? ないようなので、以上。解散」
 チェイス係長はすぐに会議室を出ていく。室内はざわめいていた。
「連中、従いますかね」
「バウンティ・ハンターや軍人は従うだろうよ。なんせ事件は伏せてあるからな。だが用心棒とガンマンはそうもいかんだろうな」
「自警団でも組んで巡回しそうですよね」
「だろうな。厄介なコトにならなきゃいいんだが」
「例のなんでも屋はどうでしょうか」
「動くだろうな。優秀な情報担当がいるからな。ただ早々には動かんさ」
「どうしてですか」
「優秀だからさ。動くなら時機を見て動くさ」
「血気盛んな奴等から動くというわけですね」
「そうだ」

 オール・トレード商会の電話が鳴った。ビリーは夕飯の後片付けで忙しいのでアレックスが出る。
「はい。オール・トレード商会」
「オレ、ヨハン」
「どうした。仕事中だろ」
「まぁ、そうなんだけどさ。用心棒からいい話聞いたもんだからさ」
「いい話?」
「協会から自粛勧告が出たんだとさ。で、連中、有志募って自警団組むって言っててさ」
「ウチも来た。通り魔が出るから夜は銃を持って外出するなって」
「そうなんだよ。でもおかしくねぇ。通り魔なら街宣車出して町中で流すだろうにさ」
「そうだな。きっと銃を下げてる輩だけ狙われてるんだろう」
「そうか。なら安心して仕事できるよ。アレックスは参加すんの」
「やめとくよ。命が惜しいんでね」
「ふ~ん。なんだ。じゃあ、仕事に戻るな」
 アレックスは考えた。勧告は所属している各協会から出されている。例の銃撃事件は警官だけを狙っていたのではないようだ。これは思ったより厄介な事件かもしれない。
 ビリーが手を拭きながらやって来た。
「誰からでしたか」
「ヨハンから。用心棒が勧告無視して自警団組むんだとさ」
「そうですか。危険ですね」
「あぁ。事は思ったより複雑になり始めた」
「ですねぇ。どうしますか」
「ちょっとディータに行ってくる。ガンマン達の様子を探ってくるよ」
「痛飲してこないでくださいよ」
「するか」
 アレックスはふてくされて出ていった。

 ディータには今宵もガンマンが集(つど)っていた。ここはガンマン御用達になっている。アレックスはカウンター席でジャック・ダニエルを飲みながら奥の席を見やった。何やらお祭り騒ぎになっていた。
「おい、アレックス! お前も参加するだろ!」
 一団からお誘いが来た。やはり自警団を組んだようだ。
「今回はやめとくよ!」
「なんだよ! 腰抜けだな!」
「腰抜けで結構!」
 カウンターに向き直り、残りの酒を一気に飲み干す。グラスを差し出すと、マスターのボギーが注(つ)いでくれた。
「連中、ずっとあんな感じか」
「えぇ。来た端から声掛けてますよ。通り魔ですってね」
「そんなコトまで喋っているのか」
「大声で話していましたよ」
「一般客はいなかっただろうな」
「えぇ。でも物騒ですよね。オーランド郡でもないのに」
 オーランド郡はここホランド郡の二つ隣りの郡で、共和国と国境を接している。十年ほど前まで共和国と紛争を起こしていた。アレックスも派兵されていたのでよく知っている。和平締結後の今も治安は安定していないと聞く。
「ボギーも気をつけなよ」
「大丈夫ですよ。ウチは夕方から明け方まで営業ですから」
「そうか。それもそうだな」
 アレックスは酒を飲み干すと勘定を済ませて店を出た。ここも困ったコトになっていて頭が痛かった。


             BLACK NIGHT
作品名:クロス 完全版 作家名:飛鳥川 葵