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飛鳥川 葵
飛鳥川 葵
novelistID. 31338
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クロス 完全版

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「ジャック・トーマス巡査。唯一の目撃者です」
「よし、行こう」
 二人はトーマス巡査に歩み寄った。付き添いの刑事に状況を聞くと、このまま病院に搬送されるという。
「ちょっといいか。クロスはどんな奴だった」
「……笑ってた。ずっと笑ってたんだ。ずっと……」
「こいつ、ずっとこんなか?」
「落ち着いたんですよ、これでも。でもそれからは何を聞いてもこればっかりで。相当ショックが強いようです。後は医者に任せましょう」
「そうだな。悪かったな」
 二人はその場を離れた。今度は人型に歩み寄る。これで三件目だ。ロンはまだまだ続きそうな予感がした。

 翌朝の会議は前回とほぼ同じだった。被害者の欄にショーン・デンプシー巡査の名が加わっただけである。どの報告も判を押したようなものばかりだ。捜査方針も引き続き継続だが、ただ一点追加事項があった。それは警察の予算食らいのアンドロイド部隊の投入だった。これ以上の人死にを出したくないチェイス係長は、アンドロイド部隊長コーエンに巡回を打診した。コーエン隊長は快諾し、人気の少ない地域に部隊を投入するコトに決めたのだ。後はトーマス巡査が落ち着き、医師の許可が下り次第、再度聴取をするというコトだった。
「よく上は許可しましたね。いくら隊長が快諾したからといって。そう思いませんか、カーター刑事」
「だよな。なんせ一体三百万バックス以上する高級部隊だからな。まぁ、面子の問題もあるだろうがな」
「うまく引っかかってくれるといいですよね」
「そうさな。金食い虫なんだから、そんくらいの手柄は欲しいもんだよな」
「我々はこれからどうしますか。みんな聞き込みに行っちゃいましたけど」
「帰る。寝たい」
「いいんですかぁ」
「いいんだよ。オレはいつもそうしてんだ。昼から動いても成果は変わらんさ」
「じゃあ、僕も休みます」
「そうしてくれ。十三時にレオナルド通りのカフェ・パリスに来てくれ」
「分かりました」

 ビリーはご機嫌だった。久し振りに仕事の依頼が入ったからだ。アレックスは渋ったが、常連の頼みなので断りはしなかった。二〇四号室の世話好きなおばちゃん、タミヤが身内だけのパーティーを開くためにオーダーしたオードブルを取りに行ってほしいという。大きいため、この小柄なおばちゃんではおぼつかないのだ。たった千バックスの仕事だが、ビリーは嬉しかった。
「はい、お金ね。オードブル代はもう支払ってあるから、取りに行くだけよ」
「お金は後払いですけど」
「いいじゃないの。いつもちゃんと届けてくれるんだから。はい、渡したわよ」
「分かりました。行ってまいります」
 ビリーは中央広場横のフードセンターにおつかいに行った。予想していたのより大きかったので少し驚いた。
「ビリーやい」
 突然呼び止められた。振り返るとマラキーが指定席から手招きをしていた。近寄ると耳を貸せという。オードブルをなんとか頭上に持っていき、かがんだ。
「今日プロント通りで銃声を聞いたという客が来てな」
「プロント通りで? 銃声?」
「しかも四発じゃよ。一昨日のコトだと言っておったわい。警察にしつこく聞かれて嫌気が差したとも」
「一昨日……」
「思い当たるじゃろ」
「警官が増える前の日ですね」
「そうじゃ。四発も銃声があったのに伏せておくとは、何か理由がありそうじゃな」
「そうですね。ありがとうございます。でも手持ちがこれだけしかないんです」
 ビリーはタミヤの依頼料を差し出した。
「構わん構わん。この間これの三倍貰ったんじゃ。貰い過ぎじゃて」
「じゃあ、千バックスでお願いします」
「えぇよ、えぇよ。さぁさ、おつかいの途中じゃったんじゃろ」
「そうでした。思い出させてくれてありがとうございます」
 ビリーはそそくさと立ち去った。

 タミヤにオードブルを届けると急いで帰り、マラキーから聞いた話をアレックスにした。
「せっかくの千バックスが消えちゃった。今日の酒代……」
「渋ったくせに、よくもまぁそんなコトが言えますね。私の話聞いてましたか」
「聞いてたよ。プロント通りで四発の銃声、それも警官が増える前の日」
「そうです。警察はこんな凶悪な事件を何故隠そうとするのでしょうか」
「簡単だ。被害者が身内なんだろうよ」
「そうか。それなら面子にこだわる彼等ならありうる話ですね」
「やっぱりロンの奴をつつくしかないか。今日も帰ってきてるだろう」
 言うが早いか、もう部屋を飛び出し、蛇腹格子のエレベーターに飛び乗った。呼び鈴を押すとドアが開いたので中に押し入り、すぐに後ろ手で閉める。
「プロント通りで四発の銃声。心当たりは?」
「ないね。いきなりなんだよ」
「それをきっかけに街で警官を見る回数が増えた。どういうコトだ。何故隠す。身内が殺られでもしたか」
 アレックスは畳み掛けた。言い出したら利かない性格なのを知っているロンは降参せざるを得なかった。
「そうだよ。みんなアレックスの言う通りだ。一昨日、プロント通りで巡回中の巡査が通り魔に襲われた」
「よろしい。まだ捕まえていないんだな?」
「あぁ、捜査中だ。もういいだろ。これから人と会うんだ。出てってくれ」
「分かった。何かあったら教えてくれ。人手が欲しいなら手を貸すから」
「間に合ってるよ。さぁ、出てった出てった」
 アレックスは締め出された。思った通り身内被害の隠蔽だった。通り魔と言っていたが、フィゲロ通りの一件もそうかもしれない。いずれも夜は暗く人気の少ない通りだ。アレックスは夢中だった。遊び道具を得た子供のように。

 ロンがカフェ・パリスに入ると、デービス刑事は手を挙げて合図した。マスターのヘンリーにいつものエスプレッソを頼んで席へと向かう。
「待ったか」
「いいえ。僕もさっき来たばかりです。その証拠に先に注文したコーヒーとトーストがまだ来てません」
「そうか。情報は入ってるか」
「冴えないものばかりです。銃声のような音を聞いたってのしか」
「そうか。そんなもんだろうな。なんせ一番近い民家まで一キロもあったんだからな。いくら夜が静かでも無理ってもんだろう」
「えぇ。そちらはどうですか」
「厄介な奴が首突っ込んできて、頭痛ぇよ」
 その時ヘンリーが注文の品を運んできた。並び終えると恭(うやうや)しく頭を下げて去っていく。
「厄介な奴?」
 デービス刑事はコーヒーに砂糖を三杯入れながら聞いた。
「入れ過ぎだろ、それ」
「ちょうどいいですよ。それより厄介な奴って?」
「オール・トレード商会だ」
「オール・トレード商会?」
「知らねぇのか。有名だぜ。警察に茶々入れるので」
「知りません。初耳です」
「こっち来て日が浅いのか」
「まだ半年です」
「だったらしようがねぇ。オール・トレード商会ってのは、その名の通りなんでも屋だ。金さえ払えばなんでも請け負う。だから時にはこっちの味方にもなり敵にもなる。そいつが首突っ込んできやがったのさ」
「どこまで知ってるんですか」
「プロント通りの一件だけだ」
「なら安心だ」
「安心なものか。奴等にはデッカイ後ろ盾があるんだ。その気になりゃ、事件を横取りするコトなんかわけねぇんだ」
「後ろ盾?」
「そいつは言えねぇけど、とにかく厄介な奴等なんだ」
作品名:クロス 完全版 作家名:飛鳥川 葵