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アッシュ ラリッサ
アッシュ ラリッサ
novelistID. 46007
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流れ星のタンゴ Part.3

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藤原        フモフモがどっか行っちゃうって想像してご覧、
          もう二度と会えない… 痛みか、悲しさみたいなものを
          感じるだろう…  それが悲しみだよ。わかった?

 エリーズは頷く。

藤原        で、今は多分君は動物のことを考えてるだろう!

エリーズ      (びっくりして)どうしてわかったの???丁度白い
          うさぎのことをかんがえていたの。

藤原        あーぁ、やっぱり。目の中に長い耳が見えたんだ、ふもふも
          ではなかったよ!

エリーズ      (微笑んで)すごい!藤原さんの目を見ていたら、なんか
          アリスみたいにおっこちて… 知ってる?… 白い兎の穴に
          落ちたアリスみたいに… それから、あなたの中でとっても
          素敵な国を見るの!

藤原        僕は魔法使なんだ!人の考えが読めるんだよ!

 フランソワーズが喫茶店に入ってくる。

フランソワーズ   (息苦しそうに)旅行会社はもう閉まったわ… 私ぎりぎり
          間に合った… 藤原さん、ありがとうございます。
          私たち行かなくちゃ、明日の朝発つんです。

藤原        また日本に戻ってきますか?

フランソワーズ   えぇ、来週の九月二十四日には。東京での仕事が
          終わってないんです。

 フランソワーズとエリーズが去る。

藤原        いってらっしゃい…

 フランソワーズが怪訝そうな顔をして振り向く。

フランソワーズ   Idee d’achat?(イデ・ダシャ?) Quelle idee d’achat、
          藤原さん?《買い物リスト?何の買い物リスト?》

藤原        いってらっしゃい… Go and come back…


 ”東京は霧の中”曲がながれる。

遠く離れた異国のあなた

恋する二人 夢なら逢える

目覚めればあなたはいない

結ばれない恋物語

東京は霧の中

別れの言葉

悲しみの雨

降り注ぐ

遠く離れた愛しいあなた

逢いたい想い 募るばかり

あなたへの想いを運んでくれる

フランスからの風

パリは霧の中

別れの言葉

悲しみの雨

降り注ぐ



『第三場』

 藤原のマンション。窓から赤く光る東京タワーが見える。低いテーブルの上に
 空の酒瓶がいくつかある。藤原は熱さまシートを額に貼って酒が残っている
 瓶を持っている。電話が鳴る。

ひかりの声     藤原さん、頭痛、よくなった?

藤原        全くなんだ、薬を飲むよ. (グラスに残りの酒を注ぐ)
          ほら、これでだいぶ良くなるよ。

ひかり       もう一週間も会っていないわね。

藤原        そうだね、悪かった、仕事がすごく忙しくてさ。ちょっと
          待ってね、睡眠薬探すから… (空の瓶を確かめて、
          がっかりした様子で、カウンターから赤ワインの瓶を出す)
          あぁ、あった…

ひかり       もうそんなに薬を飲まない方がいいわよ!気持ちが
          悪くなるわよ!

藤原        しかたないだろ…

ひかり       ごめんなさい、今こんなこと言うべきじゃないんだけど、
          この間山田さんに言われたの…

藤原       山田さんって誰?記憶にないな…

ひかり      同僚よ… 山田さん何日か前にあなたを喫茶店で
          見かけたって。金髪の長い髪の小さな女の子と一緒
          だったって言うんだけど、本当?

藤原       (怒って)山田さんなんて知らないよ!どの山田さんなんだ、
          一体?… (ためらって)金髪の小さな女の子?うん、
           本当だよ!じゃぁね… (電話を切る)

 藤原はベッドに座り手で頭を抱える。

藤原        どうしたんだ???ひかりに嘘なんか付けない!!!

 ワインを注ぎに立ち上がる。

藤原        四十六歳にもなって、解決できない状況に陥ってしまった!
          二人… いや三人の女… エリーズも勘定にいれないと…  
          三人の女に必要とされている。みんなと親密になって
          しまった… 三人に対して責任がある!!!

 カスタネットの音、ステップの音手拍子が聞こえる。

藤原        僕はひかりの運命に責任がある… 彼女を見捨てたくはない、
          そうだろ?彼女の穏やかで信じきった目!どうして彼女の
          信頼を裏切ることができる?

 アルゼンチン・タンゴが聞こえる。藤原は薬を飲む。

藤原        フランソワーズだってそうだ、彼女を見捨てたくない!
          あの日、確かにこのフランスの人の目の中に僕の助けが
          必要だって見えたじゃないか…そのうえ今彼女の
          母親が亡くなって、彼女の人生の霧がいつもより厚く
          なっている…

 藤原はまた別の薬を飲む。カスタネットの音、ステップの音、手拍子熱狂的な
 ギタリストの叫びが聞こえてくる。

藤原        ひかりには星たちがフラメンコを踊っていると言って
          勇気づけなければ。あぁ、目眩がする…

 藤原は洗面台に走り、吐く。タンゴが聞こえてくる。

藤原        それにエリーズ… あの子にはもうあのひよこのぼうやを
          落とさないように教えなくっちゃ!服に飲み物を
          こぼさないように手伝わないと!!!

 カスタネットの音、ステップの音、手拍子熱狂的なギタリストの叫びが
 聞こえてくる。藤原はベッドに身を投げ出す。

藤原        ひかり…

 タンゴが聞こえる。

藤原        フランソワーズは僕を必要としている!彼女は今、
          弱っていてぼんやりしている… 彼女が厚い霧を横切って
          透明な道に出られるように助けなくちゃ…

 部屋は静けさに包まれている。窓から朝日の最初の光が見える。
 藤原は熱さまシートを額からはずす。それから、神経質な動作で空の酒瓶を
 テーブルから落とす。

藤原        離婚したとき、僕は、娘の樹里を恐怖と不安から守って
          やれなかった。だから、今度こそはエリーズが一人で
          家で怖がらないように守ってあげなくちゃ!