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アッシュ ラリッサ
アッシュ ラリッサ
novelistID. 46007
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流れ星のタンゴ《Part.2》

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          起こらないの。踊りの技術だけ。女はパートナーが“
          注文する”動きを自分の身体で感じなければならないのよ。

藤原        つまり、あなたが太ももを菊池さんの太ももに
          からませたのは、単なる技術?

フランソワーズ  (いたずらっぽく)Oui、mon cheri!(モンシェリ)
          《ええ、愛しい人》

藤原        おしり???おしりって日本語でどういう意味か
          知ってる?

フランソワーズ   よく知ってるわよ。でも聞き違いよ。あなたのこと
          モンシェリって呼んだのよ。英語でhoneyという意味よ。

桜井       (フランソワーズに近づく)あのね… ちょっとごめんね、
          外人さん、あなたはヘビー?

フランソワーズ   蛇???わたしは蛇?(蛇の動きを真似しながら)
          私は蛇に似ていますか?

桜井        いいや、蛇じゃないよ!ヘビー!!!重い!!!

フランソワーズ   重くないよ!

桜井        あのね… わしは…

大場        いいから、桜井さん、こっちいらっしゃい!
          ビールおごるから…

フランソワーズ   本当の錬金術は、二人のパートナーが互いに愛し合ったら
          始まるの。そうなったらもうタンゴのテクニックのこと
          なんて考えられない。体と魂、二人のパートナーは一つに
          なるの。一種の同盟… そうね… なんて説明したら
          いいかしら… 融合… (手の指を組む)ダンスと思想に
          よる愛の完全なる理解。

藤原        それって、君はもうそういう融合の体験があるってこと? 
         (フランソワーズのしぐさを真似て手の指を組みながら)

フランソワーズ   ええ、一度だけパリでね。最初のアルゼンチン・タンゴの
          先生と踊った時にね。彼にタンゴを教わりながら、
          抵抗し難い彼への引力を感じたの。彼の体からの引力をね。
          ニュートンの法則ね。(藤原のベストの端をそっとつかみ、
          彼女の方へ引き寄せながら)

貞子        (笑いながら脇を通る)そうよ、藤原さん、これぞ
          ニュートンの法則よ、フランソワーズがよく私たちに
          話してくれたわ!

フランソワーズ   ええ、そのとおりよ!それからその先生と私は、
          私がオーラの化学反応って呼んでいるものを体感したの。
          (手で触れること無く藤原の頭と肩の輪郭を描く)
          それから、熱狂的な二年間が始まったの。

藤原        (いらついた様子で)なんで僕とは、君がその先生とあった
          ような錬金術の情熱が起こらないんだ? ほら、
          僕のベストの端を持って、ひきつけてごらんよ!

桜井        (ビールのグラスを手に近づく)あのね… 外人さん…
           チョットごめんね… あなたはヘビーでしょ?

フランソワーズ   (穏やかな声で)ヘビーじゃない、桜井さん!

桜井        (がっかりしたようすで)ヘビー… ヘビーと思うんだけど…
          (自分のテーブルに戻る)

フランソワーズ   私のタンゴの先生はニ年間私を苦しめたの!!!
          フランスでは彼みたいな人のことをまるで干し草の
          上で眠る犬みたいって言うの、犬は、干し草を食べない
          けれど、そのうえで眠って、他の人が干し草を
          取ろうとすると怒る... つまり干し草が私で犬が彼…
          ニ年間私はこの男に縛られていたわ!彼結婚していて
          私の為にすべてを捨てる決心はつかなかったのよ。
          さぁ、私、もう帰らなきゃ。

桜井        (バーの出口までフランソワーズについていき)ちょっと、
          ちょっと、外人さん… あなたヘビーでしょ?

フランソワーズ   しょうがないな!ヘビー! ヘビー!!!
          私はすごいヘビー、桜井さん!

桜井        (ほっとした様子で)ああ、そう!うふふ…
           安心したよ、 どもどもね!

 藤原とフランソワーズはバーから出る。

藤原        (緊張した声で)君のフランス人のタンゴの先生は、
          君のこと愛してるって言ったの?

フランソワーズ   いいえ、一度も。でも彼私を愛していたと思うわ。

藤原        じゃ、君は多分彼の目の中にそれを読み取ったんだね。

フランソワーズ   なんて答えていいか分からないわ、藤原さん…
          あなたたち日本人はお互い目を読むって言うわよね。
          だからあなた達は愛の言葉を殆ど口にしないんでしょう。
          目を見て相手が何を考えているのかわかるのね。
          テレパシーが使えるのね!ヨーロッパ人はそんな
          能力失ってしまったわ! たぶん私たちの利己主義の所為ね、
          いつも急いでいるようにしなきゃいけないのよ。私たちは
          目でわかり合うなんて信じない。私たちが信じるのは
          言葉だけよ!

藤原        君も言葉しか信用しない?

フランソワーズ   私も、残念ながら!たとえその眼が「愛してる」と
          言っていても、私は自分自身に対して懐疑的に
          なりやすいの、だってもし私が間違っていたら?ね、
          だから私は愛した人の目の中に感じたものに対して
          言葉での確証が必要なの。

藤原        (熱烈に)いい考えがある!ちょっと目で考えや感情が
          伝わるか、試してみようよ、いい?さあやってみよう…
          ヨーロッパ人の君だってきっとテレパシーの力を
          持ってるよ分からない?

フランソワーズ   そう… じゃ、やってみましょ…

 彼らは明るいネオンの光を放つ栄養ドリンクの広告に近づく。

藤原        僕をまっすぐ見て!いや、そうじゃなくて!ちゃんと
          瞳を見て…

 藤原はフランソワーズをもとネオンの近くに向ける。彼は何も言わず
 フランソワーズの目をじっと見つめる。

藤原の声      僕は君にすっかり魅了されてしまった。だが困っている。
          僕には既にひかりという人がいる。