火付け役は誰だ!
「…マスターー?聞いてます?」
「後五分…」
「もう夜ですよ?」
この一言で目が覚めた。
そういや結局鼻血出したんだな、きれいに拭かれてるけど。
「鼻血は拭いておきましたよ、マスターは純情ですね!」
有難いことに少女はちゃんと服を着てくれている、買ったかいがあったというものだ。
なんか同年代に見える少女にそう言われるとこそばゆいのだが。
「一応…ありがとう、か。」
「どういたしまして!」
裸を見られたのに元気だ、俺の手に余るくらい。
さて、本題に入ろう。
「穂子、って言ったよな?」
「はい!」
「質問だ、1つ、お前は誰なんだ?2つ、マスターってなんだ?」
目下知りたいところはその2つ。
穂子はちょっと考えてからこう答えた。
「1つ目は…言葉で言うのは簡単なんですがちょっと信じてもらえるか怪しいんですよね、マスターは信じます?」
肩をすくめてとにかく話してみろのジェスチャー。
「私、妖精です。」
何故か奇妙に納得がいく答え。
確かに妖精なら、なんか不思議かつカオスな登場も分かるし、神話とかでもよく裸を見られてるから動揺しないのも分かる。
「もうちょっと詳しく言うなら火の妖精です!」
俺が疑わしげな顔をしていたのか必死の形相で近づく穂子。
「だ、大丈夫大丈夫、疑ってないから。」
「ホントに?」
「ホント。」
「髪に誓って?」
「漢字が違う。」
「因みに誓わないとハゲます。」
「ごめんなさい誓います。」
老後にその心配はしたくない、ダメゼッタイ。
「まぁいきなり言われても信じるのはキツいですよね、こんなときの為のレクチャーDVDは持ってきてるんですよ!」
「用意が良いな、それを見りゃ…」
そこ、なんのレクチャーだとか聞かない、無粋だぞ察せ。
「服に入れてたので今はありませんケド☆」
「ダメだった!誰もが想像できる安易なオチだった!」
頭を抱えて床をゴロゴロ、うつ伏せのまま上目遣いで続けろと促す。
「ま、まぁ私達って結構神話でも出てきてるんですよ?ギリシャ神話とかでもいますよね?妖精(ニンフ)って。その内の私は火を司る妖精という訳なんです。」
ほう、信じるとしたら結構凄い身分だ。
「火を司るって事はギリシャ十二神のヘスティア傘下って事なのか?あの人は竈の神だったよな?」
何気ない顔で言うと穂子は俺がそんな事を何故知っているとばかりに驚き、頷いた。
「そうです!よく知ってますねマスター!」
「まぁ、一時期倫理とかでギリシャ勉強したついでにギリシャ12神とかローマ神話とかやったんだよ。」
因みにギリシャ12神は11人は確定しているのだが最後の1人がヘスティア(かまどの神、家庭と火を司る)、デュオニュソス(酒神、ワインと騒動を司る)の2人両説あるのだ。
「ヘスティア傘下ってことは穂子も結構凄い火使えるんじゃないのか?いわゆる発火能力(パイロキネシス)みたいに。」
ヘスティアはかまどの神なので家庭信仰が厚かった、信仰が厚かったなら力も凄いんじゃないかとの俺の想像からの質問だ。
「いやぁ私はそんなでも…」
「いやいやご謙遜をー」
「それで実は?」
「ふふん、私が使えるのは『火の向きを操る』事!」
ドドン、という重厚な効果音が聞こえた気がした。
「確かにそれは凄いな…じゃあ一回試させてもらっていいか?」
「何を?」
「これ。」
カチッと音を立てて着火、チャッカマンだ。
これを火の妖精さん(自称)に突きつけて差し上げる。
さぁ炎使いならではの華麗な技を
「ぎゃあああああああ火怖いいいいいいいいいい!!!!!!!」
炎使いならでは(?)の後ろ走りを披露!?
そのままカーテンにくるまる穂子、聞き間違いだと信じたいが、今のはどういうことだ。
「マスター!いきなり!なんばしよっとね!私達炎見れないんですよ!」
「とは?」
チャッカマンをしまってやる。
穂子は「チャッカマンいつ出したんですか…」とかぶつぶつ言っていたがカーテンから出てきて話し始める。
「神話とかで、んー、例えば神々の黄昏(ラグナロク)ってありますよね?」
「最終戦争、だろ?」
「そうそう、ギリシャ神話とかだとテュポーンとの戦いとかなんですけど、その戦いに巻き込まれたせいで、私達妖精って自分の司るものが苦手な物でもあるんですよ。」
「と、言いますと?」
「例えばこっちが必死に皆で戦ってるのにあっち側は軽々とその何倍もの火を吐けるんですよ?トラウマにもなりますって。勝てませんもん。」
弱々しく笑う穂子を見てそもそもの妖精が嘘だという気は起きなかった。
「あ、でも待って下さい…これを使えば!」
「…なんだそれ?」
「『火ガコワクナーイ』です!!!」
「商品名嘘臭すぎだろ!というかただ単に赤セロファンをはっつけた伊達メガネだろ!」
「ふふん、さぁ仇敵チャッカマンに着火してくださいよ!」
「ハイハイ。」
着火してやると穂子は怖がらなかった、要は赤セロファンで炎が揺らぎにしか見えていないだけなのだが。
「ほいっ。」
穂子が手首を右に曲げると炎が右に90度へし折れた。
「おお!」
右の次は左、そちらも倒れる。
「秘技、往復ビンタ!アタタタタタタタタタイッ!!!」
どこかで聞いた高音セリフと共に手首を凄い速度でカクカクさせる穂子。
それに伴い、炎も往復ビンタされているようにカクカクされている。
「フイニーッシュ!!!!!」
最後に腕を大きく振るとチャッカマンの火は強風に吹かれたように消え失せた。
誇らしげに胸を張る穂子に拍手を、してあげないとへこみそうだ。
「これで私が妖精か、信じました?マスター?」
「…いや、その事なんだが、」
悲しげな顔をするな、妖精かはともかく、常識の範疇にないことは十分分かったから。
「そんな妖精がなんで俺の所に?」
「良い質問です!」
「楽しそうに言うなぁ…」
「それこそがマスターの2つ目の質問、『マスターってなんだ?』という事にも繋がってきますから。」
「といいますと?」
ここで聞き返すと穂子はいたずらっぽく笑い、続けた。
「貴方が妖精同士の戦争ゲームに巻き込まれたからですよ。」
二番、幕引き